ジルコン

オリジナル小説置き場

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[06]  雪中の足音
[05]  中毒
[04]  天体観測
[03]  月光
[02]  つきのうさぎ
[01]  夢

月光

 何かに呼ばれた気がして、男はフイと振り返った。見えるのは、見知らぬ人の波。
 あぁ、と微笑み、天を振り仰ぐ。
 ──あんたか。
 緑の衣服の代わりに、人工の星の光を躰にまとう、直方体の、灰色に染まった樹木たち。その遙か彼方の頭上から降り注ぐ柔らかな光のシャワー。
 ──オレを、呼んだか?
 光が、人の体温よりも温かに男を包み、空へと誘う。
 閉じた瞼の裏に見えるは、幼き日々。陽の光に包まれた懐かしい思い出。
 あぁ、今は。
 今は。
 月の光を、抱こう。
 オレも年をとった。
 今は陽の光よりも、月の光が心地よい。融けてしまおう、月の光に。
 その、柔らかな腕の中へ。融けてしまおう。その先にある胸の中へ。
 月よ。
 融けてしまおう。そして、たゆみなく地球へと舞い降りよう。
 月の光とともに舞い降りよう。
 もう一度。
 もう一度、月を振り仰ごう。
 その光に、抱かれる為に。そして、そこへ、戻る為に。
 何度でも。何度でも。

あとがき
 サルベージ品です。これを書いた数年後、恐怖の大王は降ってきませんでした。
(2002/11/16)
 
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