何かに呼ばれた気がして、男はフイと振り返った。見えるのは、見知らぬ人の波。
あぁ、と微笑み、天を振り仰ぐ。
──あんたか。
緑の衣服の代わりに、人工の星の光を躰にまとう、直方体の、灰色に染まった樹木たち。その遙か彼方の頭上から降り注ぐ柔らかな光のシャワー。
──オレを、呼んだか?
光が、人の体温よりも温かに男を包み、空へと誘う。
閉じた瞼の裏に見えるは、幼き日々。陽の光に包まれた懐かしい思い出。
あぁ、今は。
今は。
月の光を、抱こう。
オレも年をとった。
今は陽の光よりも、月の光が心地よい。融けてしまおう、月の光に。
その、柔らかな腕の中へ。融けてしまおう。その先にある胸の中へ。
月よ。
融けてしまおう。そして、たゆみなく地球へと舞い降りよう。
月の光とともに舞い降りよう。
もう一度。
もう一度、月を振り仰ごう。
その光に、抱かれる為に。そして、そこへ、戻る為に。
何度でも。何度でも。