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乗り遅れた四月馬鹿

「イシカワ~?」
 トグサが目当ての人物の名を呼びながらダイブルームに入り込むと、その部屋の主が、両肩にのしかかる機材を押し上げたところだった。
「何だ、捜し物なら自分でやれよ」
「違うよ。IDカードこっちだって聞いてさ」
 その台詞にイシカワは「ああ」と小さく頷いた。
「明後日からの潜入捜査のヤツな。今チェックが終わったところだ」
「大丈夫なのか? ミサワ、これ作るの初めてなんだろう?」
「だから俺がチェックしてやったんだろうがよ」
「そうだから、なおさらなんだよ。新人作成、オジィ監修だろう?」
 イシカワは鼻を鳴らして、ニヤニヤ嗤うトグサの鼻先にIDカートを投げつけた。つい先日、何もないところで転ぶという無様な失敗を、トグサの目の前で披露してしまったのだ。義体の部品を初めて使う物に換装したばかりでバランスがとりにくかったためだが、トグサは「寄る年波の所為だ」と言って聞かないのだ。その言葉を完全否定できない些細なことがいくつか自覚できていたため、イシカワは苦虫を噛み潰すしかできない。
 そんな折りの囁きは、聞き流すには惜しすぎた。
 イシカワは好奇心を苦虫の下に隠したまま、相手を注視する。
 変化はすぐに現れた。
 IDカードをチェックしていたトグサの顔色が瞬く間に、青から赤へと変わっていく。
「イシカワ、これ……」
「ああ、それな。それ……」
「これ指定したの、ダンナだろう?! 誕生日が四月四日のオカマの日に設定したり、写真に化粧したり! こないだ言ってたのは冗談だと思ってたけど、まさかマジネタにしてイシカワに指示までするなんて、底意地悪すぎると思わねぇ?!」
 IDカードをイシカワの目の前に突きつけたトグサは、誕生日欄と証明写真を交互に指さす。確かにそこは、四月四日の記述と、コントのように白塗りされて頬と唇が真っ赤に彩色された、女装のトグサが印刷されていた。
「糞バトーは、今、何処!」
「──ラボ?」
 イシカワの答えを聞くやいなや、IDカードを握り潰したトグサはダイブルームを飛び出していった。
 あまりの剣幕にトグサを引き留めることができなかったイシカワは、ポケットからもう一枚のIDカードを取り出す。それが正真正銘、トグサが使う予定の、本物の偽装IDカードであった。
「今日は四月馬鹿なんだが、な」
 イシカワは、謂われのないトグサの怒りを買わされることになるバトーの不運をほくそ笑む。
「ま、いいか。トグサが勝手に勘違いしたんだし」
 そう呟いてイシカワは、IDカードをサイドテーブルに爪弾いた。
― 了 ―

あとがき


3/3は女の子の日
5/5は男の子の日
じゃぁ4/4は………??
原作で『オカマ』バーに潜入しろといわれたトグサの日!!

ゼロさま、企画してくださってありがとうございます!


 攻殻では初めての季節企画モノです。ぎりぎりまで迷いました。こんなベタネタで……と思いましたが、やっちゃいました。参加したくって(^^;
 原作ではトグサ、バトーに「オカマバーの潜入捜査」を言われた時、結構ノリノリなんですよね。これと違って。そのへんはすみませんが、パラレルってことでお目こぼし願いますm(_ _)m
 
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