ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

アレ城

ギフト

 思わずこみ上げた生理現象を我慢することなく、ふあっと開けた口をアレクは左手で隠した。目にはじわりと涙が浮かぶ。
 ここ数日はハードスケジュールで、かなり忙しく立ち回っていたため、睡眠を充分にとれていないためだ。
 今のような年末年始や国会期間中は、開発よりも警備業務が優先されることになっている。A級SPでもあるアレクを遊ばせておくほど、委員会は無能ではなかった。実家にも帰らない人間にゆっくりとオモチャづくりさせるほど暇ではない──そう暗に告げられ、外警のシフトに組み込まれてしまったのだ。
 そんな状況の中の大晦日の夜はアレクにとって、やっと手に入れた貴重な自由時間だった。
 しかし、国際手配のテロリストが東京に潜伏中との情報が、日付が変わる三時間前にDGへもたらされる。お陰でアレクは(ガラクタ)の山を部屋に広げたまま勤務復帰を命じられ、とうとう議事堂の庭で初日の出を拝むことになったのだ。
 そんなアレクがようやく自由時間を取り返したのは、雲一つ無い青空の中、太陽が南中しようとする時間であった。

 一日以上も眠らずにいたお陰で、アレクの目はかなりしょぼついていた。あくびで溢れる涙を手の甲でぬぐうたびに、誘惑としては強すぎる眠気が襲ってくる。やりかけていた作業を中途半端にしておくことは嫌なのだが、アレクの気持ちは睡眠欲を先に満足させたがっていた。
 まっすぐ自室を目指していたが、話し声につられてふらりとラウンジに足を踏み入れる。
 それからある人物を見つけると、目を細めて軽く手を挙げた。
「城ちゃん」
 声をかけると、皇親はアレクの側に駆け寄った。外出から帰ってきたばかりらしく、貸したコートを羽織ったままである。
 アレクと同じく帰省を予定に組み込まなかった皇親は、久しぶりに中学時代の友人たちと初詣に出かけていたため難を逃れたのだ。
 皇親は律儀にも新年の挨拶を済ませてから、本題に入る。
「お疲れ様です。緊急事態(コール・レッド)だったそうですね」
「そうなのよー。お陰で俺、一睡もしてないの」
「でしたら、早く部屋に戻った方がいいですよ」
「どして?」
「きっと眠れなくなります」
 皇親が視線で指し示したラウンジの奥では、新年を祝う者たちが大盛り上がりしている。笑い声の声高さが、そのまま酒量に置き換えられると言っても過言ではないだろう。
 お祭り大好きのアレクが声をかけられたなら、絶対に参加するに決まっている。そうなる前に立ち去るのが賢明だ──そう思って皇親はアレクを促したのだが、時は既に遅かった。集団から離れた一人が、ふらふらしながら近寄ってきたのだ。
「头子!」
 千鳥足の酔っぱらい──白いビンを抱えた冠蓮が、真っ赤な顔に満面の笑みを乗せてアレクへコップを押しつけた。
「新年快乐。并且辛苦了,头子!」
「明けましておめでとう……って、注いでくれるの?」
「给!」
 嬉しそうに首を縦に振る冠は、アレクに抱えていたビンを掲げてみせる。赤いラベルが貼られたそれを見て、アレクは僅かに顔を引きつらせた。
「そっかー、今年も手に入ったんだー」
「是。请喝」
 差し出したコップに冠がビンの中身を注いでいる時、やっとスキを見つけた皇親はアレクの袖を引っ張る。
「中国語、わかるんですか?」
「んー、よくわからないけど、何となく意味わかるよ。冠ちゃん、酔っぱらってゴキゲンの時、たまに中国語で受け答えするのよ」
「それは?」
 視線の先には、ビンの中身がなみなみと注がれたコップがある。
「中国酒。冠ちゃん好きなの。振る舞ってくれるのは、いいんだけどね……」
 最後まで言い終えずに、アレクはコップの中身を一気に飲み干した。
「到底是!」
 アレクからの返杯を飲み干した冠は、今度は皇親にコップを差し出す。
「你也怎样?」
「俺も?」
 気楽にコップを受け取った皇親に、アレクは瞬く間に顔を青ざめさせた。
「ちょ……っ! 冠ちゃん、それ俺に頂戴!」
「アレクさん?!」
 コップを奪い取るやいなや、アレクは注がれた酒を一気に空ける。そしてコップを冠に返した。
 そのアレクに、皇親と冠の二人が詰め寄る。
「头子狡猾!」
「俺、酒ぐらい飲めます」
「冠ちゃん、ごめん」
 仕方ないなぁ、と冗談交じりにため息を吐く冠に謝った後、アレクは城に向きなおる。
「でもね、城ちゃん。これ、火がつくお酒よ? 一気飲みなんてできないでしょ?」
「一気飲み……しなくちゃいけないんですか?」
「なんか、冠ちゃんのところはそうみたい」
 皇親の顔が僅かに強張る。飲めるとはいえ、アルコール度数の高い酒を一気飲みすることはさすがにできないらしい。
「城ちゃん、冠ちゃんに返杯してあげて」
「あ、はい」
 言われるまま、皇親は冠のコップを満たす。冠はそれを軽々と飲み干すとビンを脇に挟み、手のひらを上にして両手をアレクへ差し出した。
「请你给我压岁钱」
「それも? ええと、城ちゃん、なにか持ってない? ガムとか」
「くじ引きでもらったアメならありますけど?」
「ごめん、それ、もらえる?」
「構いませんけど……」
 皇親は上着のポケットに突っ込んでいた三つのアメ玉をアレクに渡す。アレクはそれを冠の手のひらに乗せた。
「多谢,头子」
「それじゃ、俺、部屋に戻って一眠りするから」
「OK,晚安」
「うん、おやすみ~」
「拜拜,小妹妹」
 冠に頭を下げて、先にラウンジを出て行くアレクを皇親は追いかける。冠はひらひらと手を振ったあと、盛り上がる仲間たちの元へ戻っていった。

「あれって、どういう意味なんです?」
「あれ?」
「冠さんが言った『ばいばい、しゃおめいめい』って」
 冠に言われた時、皇親は何か引っかかるものを感じていた。冠と会話をしていたアレクに訊けば何か分かるかも、と思ったらしい。
「『ばいばい』は、バイバイじゃないの?」
「じゃあ、『しゃおめいめい』は?」
「それは、わからないなぁ」
 本当は『お嬢ちゃん』って意味なんだよね、とアレクは心中で呟く。『お城ちゃん』と音が同じだから、冠はそう言ったのだ。アルコールが入って悪ふざけをしたに違いない。
 アレクに答えをもらっても皇親は納得できないようだったが、気を取り直して第二の疑問をぶつけた。
「じゃあ、アメは? どうしてあげたんです?」
「お年玉ちょうだいって言われたから。あれ、去年も言われたのよ。俺がボスだから当然なんだって」
「去年は何をあげたんですか?」
「栗きんとんの栗」
 栗?とオウム返しに訊いた皇親は、アレクが頷くよりも先に微苦笑した。
「なんなんですか、それは」
「食堂で振る舞ってくれたやつなんだけど、美味しいからくれって」
「──変なお年玉ですね」
「ま、喜んでくれるならいいんじゃない? あ、お城ちゃんにもお年玉あげるね。さっきのアメのお礼。一緒に部屋へ来てくれる?」
「お伺いします。コートもお返ししないといけないですし」
「じゃあ、また誰かに捕まりたくないし、部屋まで走ろうか」
 微笑んだアレクは皇親の手を取ると、ゆっくり駆け出した。

「──アレクさん?」
 肩を揺すってみたが、床に倒れ伏したアレクはうんともすんとも言わない。
「──もう、しょうがないなぁ」
 皇親はアレクの脇に肩を入れて担ぎ上げた。頬に、規則的なアレクの寝息がかかる。
「寝不足で疲れているのに、強いお酒を二杯も飲んで走るからですよ。かばってくれたのは、嬉しかったですけれど」
 自室に戻った途端、電池が切れたかのように眠りに落ちたアレクをベッドに横たえさせた。こんこんと眠るこの部屋の主人の頬にかかる髪をすくい取って、皇親は目を細める。
「これが、お年玉ということで」
 小さく呟くと、皇親はアレクの唇に自分のそれを重ねた。
― 了 ―

あとがき
 初アレ城です! 今まで書かずして「アレ城さいこー!」なんて言えたモノですね、私。
 「お年玉」以外のタイトルをと思い、「ギフト」におさまりました。候補としては「プレゼント」「压岁钱」があったのですが、どれもしっくりこなくて。他にも「新年快乐」があったんですが、中身を整理するために最終候補からはずしました。
 作中の中国語は、適当ではないですが、間違っている可能性も含んでいます(一応、調べてます)。私の意図する日本語訳は下記のとおり。詳しい方、間違ってたら正しい中国語を教えてくださいm(_ _)m
「新年快乐。并且辛苦了,头子!」:あけましておめでと~。そしてお疲れ様、ボス!
「给!」:もちろん、注いじゃいますよ!
「是。请喝」:そうなの。飲んで~。
「到底是!」:さすが!
「你也怎样?」:君も飲む?
「头子狡猾!」:ボスずるい!
「请你给我压岁钱」:お年玉ちょうだい。
「多谢,头子」:ありがとう、ボス。
「OK,晚安」:おっけー、おやすみ~。
 城ちゃんを「皇親」って書いてますが、これは城パパとの差別化のためです。将来、城パパが出る話を書くかもしれないので迷わないようにしようと思って。
 実は、一番書きたかったのは、よっぱらった冠ちゃんだということはナイショです。タイトル候補を見れば一目瞭然?(笑)
 
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