ジルコン

G-DEFEND ファンコンテンツ

アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

その他

Don't cry,my Blue.

2
「マーティ、ちょっと」
 厨房と食堂を区切るカウンターの向こうから声をかけてきたのは、高倉さんだった。隊員の休憩時間帯からはずれているためだろう、周囲に人はいない。私が承伏の意に頷くと、人が居ないことを了承しているのか、高倉さんはその場で用件を口にした。
「副隊長はどこに?」
「わかりません。用事があるからと言われたので別行動ですが」
「あがり……じゃないよな?」
「ええ。食事休憩です。三時に中央で合流することになってますが。何か急ぎのことでも?」
 無線に手を伸ばした私を、高倉さんは即座に制する。
「いや、副隊長本人に用事がある訳じゃないんだ」
 高倉さんは一度口をつぐむと目を伏せる。しかし、すぐに顔を上げた。
「一度も食堂に現れないから、なぜだろうと思って」
「一度も?」
「ああ。自宅組だから来る頻度は少ないだろうけど、休憩の食事は来ても良さそうだろう?」
 篠井が副隊長に着任して数日しか経っていない。それでも食堂を利用するチャンスは四五回はあっただろう。場所がわからないことはないはずだ。初日は隊長とともに、ここで昼食をとったのだから。
「なあ、マーティ。彼は宮沢さん寄りなんだよな? あの人が連れてきたんだから。もしかして、食堂も一緒に使いたくない程、隊員と線引きしたいのか?」
「さあ、それは……」
 ここ数日の記憶を掘り起こす。
 確かに、隊長と隊員の交わりを『馴れ合い』と称し苦言を呈したこともある。
 だがそれを取って宮沢派とするのは違うと、私の心が忠告していた。
 なぜ、初日に隊員を観察したのだろうか。宮沢派ならば、個別ファイルで済ませそうなことだ。そうしないと言うことは。
「もしかして……」
「あ、あのっ」
 腕を引かれ、思考を中断する。声のする方を見下ろせば、狼狽気味の香取が私と高倉の顔を交互に見やっていた。
「ああ、ゴメン。邪魔だね」
 私は慌ててカウンターから一歩遠ざかる。私が占領していた場所には、箸やスプーンが山積みされているからだ。お花係の香取は、隊長や副隊長ら同様、休憩時間が不規則になりがちだ。私同様、今頃昼食を摂りにきたのだろう。
 そのように想像していたのだが、意外にも香取は首を横に振った。
「いえ、あの、違うんです」
「違う?」
「あの、ごめんなさい。聞くつもりは無かったんですけれど……」
 篠井に関する会話を聞いてしまった、ということらしい。一応声をひそめていたとはいえ、不用心なのは私たちの方である。
「謝る必要はないよ。ここで立ち話していた私たちが悪いんだ。申し訳ないけど、今の話はオフレコで……」
「それは承知してます。でも、違うんです、いえ、立ち聞きしてしまったのは私で、これは本当に悪いことだと思っているんです。それで、あの……」
 香取は口ごもり顔を伏せたが、すぐに私をまっすぐに見上げた。
「副隊長のことなんですが、おそらく、休憩はいつも屋上にいらっしゃると」
「屋上?」
「はい。今日は屋上の緑の整備の日だったので行ってみたら、副隊長がいて、ダグに『お前は私が嫌いじゃないのか』とか、いろいろ言っているのが聞こえちゃったんです。だからもしかして、みんなが食事をゆっくりとれるように、わざと食堂に来ないんじゃないかと思って」
「──やっぱり、わざと隊員を避けていると、香取も思う?」
 私の質問に大きく目を見開いた彼女は、次の瞬間には力強く首肯していた。
■ ■ ■
「疲れませんか?」
 コーヒーを渡しながら、そうマーティに尋ねた。レストルームの隅の椅子に腰掛けた彼は礼を述べた後に、いいえと静かに首を横に振る。
「篠井さんこそお疲れでは? 初日から走り回っていたじゃないですか。角野美奈の件やら色々続きましたし。それに今日から隊長が休暇に入りましたから、なおさらでは?」
「そうでもないですよ。昨日はオフでしたから、ゆっくり休ませていただきました」
 当たり障りのない言葉の応酬。交わることのない会話の連続。
 うんざりはしなかったが、私は少々飽きてきていた。嫌悪感を露わにされていてもいい。ただ、会話がしたかった。
「──あなたはこの隊のこと、どう思いますか?」
 突然の質問にマーティは、口に含んだコーヒーをゆっくりと嚥下する。そして瞬きを二回してから、私をじっと見つめた。
「他の隊を経験したことはあまりありませんが、それでもよろしいですか?」
 私が首を縦に振るのを待って、マーティは再び口を開く。
「縦も横も信頼で結びついている良い隊だと思います。力と権力で下を統制する隊を悪だといいませんが、この隊は今のままが一番良い状態だと、私は思います」
 そう断言する瞳は、射抜くように私を見据えていた。しかし敵意は含まれておらず、代わりに自信が満ちていた。
「では君は、私が隊長となることは反対ですか?」
「時と場合によります」
 予想を肯定されると決めてかかっていた私は、思わず首を傾げた。
「それは、どういう意味です?」
 この質問に、マーティは躊躇いがちに少し間をおいた。
「篠井さんが宮沢さんの考え方を踏襲するのであれば、この隊はダメになる。でも、あなたはきっと、そうはしないと感じました。なぜなら篠井さんは、隊員ときちんと向き合っているからです。この数日、あなたとともに行動して得た確信です」
「──」
「宮沢さんに追従するなら、初日に隊員や館内の様子を細かく見る必要はないでしょう。彼が喜ぶような失敗を探すだけでいいはずです。でも、あなたはそれをしなかった。だから篠井さんには、篠井さんが最善と信じる隊の形を持っている。あなたが隊長になったときは、その最善の隊を作り上げるでしょう。きっと今とは違った隊を。石川隊長は永遠ではない。そして隊員もまた、永遠ではない。だからこの形の隊は永遠には続かない。必ず変わる日が来る。それを促すのは篠井さんかもしれない」
 ゆっくりと言葉を選びながら、しかしはっきりとマーティはそう告げる。そしてこう続けた。
「でも、変わるのは今ではありません」
「だから私が隊長になるのは反対も賛成もしない、と」
「はい」
 私はぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し、紙コップを握りつぶす。
「──物怖じしないのですね」
「ここに籍があるかぎり、この隊の最善を目指します。それだけです」
「そうですか」
 私は立ち上がると、握りつぶした紙コップをゴミ箱に捨てる。続いてマーティもそうした。
「では私は、私の理想を目指します」
 まっすぐに見つめる蒼眸に、そう約束する。
 それについてマーティは、何も言わなかった。

 そしてその数日後、宮沢の知らない秘密基地へ、私は招待されたのである。
 
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