ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

西やんと内藤さん

年末の決心

「ごめんな、たっちゃん。店開けておくって言ったのは俺の方なのによ」
 行きつけの飲み屋の主人は、すまなそうに頭を下げた。
 寂しい常連を集めて年越ししようと声を上げたのがこの主人だったのだが、出産予定日を一ヶ月後に控えたの奥さんが倒れたので付き添うことになったのだ。
 鍵を預けるから皆で楽しんでほしいと申し出られたが、西脇はそれを丁重に断ったのである。
「気にしないでください。他のみんなには俺から連絡しておきますから」
「本当にすまねぇな。うちのかぁちゃんが倒れなければよかったんだがよ」
「何言ってるんですか。奥さんとお腹のお子さんの方が大事でしょ。俺たちはどうにでもなりますから」
「そういってくれるとありがてぇ」
 主人はもう一度深々と頭を下げると「今日のために取り寄せておいたんだ。皆で飲んでくれ」と、一本の酒瓶を西脇に渡した。
 それは年間の製造本数が限られるためにプレミアが付き、ネットオークションでは定価の何倍もの値段で取引されている焼酎だった。
「こんな高価な物いただけないですよ」
「いいからいいから。じゃ、頼んだよ」
 病院に行く時間だからと、はんば押し切られるように焼酎を押しつけられた西脇は主人と別れた。
 今夜の準備を手伝うため午後から完全なオフを取っていた西脇は、酒瓶を見下ろすと小さく白い息を吐く。寒がりの西脇はともかく暖を欲したが、いくつも電話をかけることになるため店に入ることもはばかられた。寮へ戻れない距離でも無かったが、それはそれで仕事を持ち込まれそうなので避けたい場所である。
 仕方なく、できるだけ風を受けずにすみそうな場所を見つけ、そこからまず、昨日から休みだと聞いていた有馬へ電話をかけてみた。
 ところがである。
「宿直のヤツがインフルエンザもらって来やがったんだ。急遽代わりをやることになったから、悪いが今日はパスな」
 そんな断り文句から始まったためか、次も、その次も、そのまた次も、急な用事や体調不良などによる辞退が相次いだのだ。
「一人であぶれもの、かな」
 西脇は携帯電話を見下ろす。そこには、メンバーの中で一番忙しいであろう人物の名前が表示されていた。
■ ■ ■
 大きな事件もないから今年はまともな年明けを迎えてくださいねと、早々に氏木から庁舎を追い出された内藤は、何年ぶりだろうか、日も高いうちに帰宅とあいなっていた。ただ、数日前から庁舎に泊まり込んでいたため、久しぶりの帰宅であるのは通常と変わりない。
「あら、帰ってらしたんですか?」
 出迎えた妻が驚くのも無理はない。年末年始は忙しくなるから帰ってこないと宣言していたのだ。ここ数年は毎年のことである。
 珍しいのは内藤の帰宅だけではなく、妻の服装だった。
 今まさに出かけようとしていますと言わんばかりの装いだったのだ。近所へ年末の買い物へ出かけるものではなく、遠距離移動の。
「どこかへ行くのか?」
「ええ、おばあちゃんのところへ。来年は受験で行けそうにないから、今年は冬休みまるまるお邪魔するんだって」
 主語は無かったが、息子の希望だろうと言うことは内藤にも察しが付いた。
「あなたもいらっしゃいます?」
「いや、いい。ちょっと帰ってきただけだ」
「そうですか、なら、もしお仕事が起きなかったら、これ使ってください」
 差し出されたのは、高級ホテルのスウィート宿泊券だった。
「福引きで当たったんですよ。あの子がおばあちゃんのところに行くっていわなかったら、二人で行こうと思ってたんです。せっかくだから、あなた、使ってくださいね」
 心なし強い念押しは、年末年始ぐらいはソファで寝るな、ということだ。それに気づいた内藤は、ほんの少しばかり、苦笑を漏らした。
「じゃあ行ってきますね」
 ほどなくやってきたタクシーに乗り込む家族を見送った内藤は、途方に暮れてどっかりとソファに腰を下ろす。
 庁舎へ戻っても、氏木に叩き帰されるだけである。行きつけの飲み屋での年越し納会までの時間はたっぷりあった。
 さてどうしようかと、テレビのリモコンに手を伸ばしたときである。ポケットから携帯電話の呼び出し音が鳴り響く。
 相手は氏木であった。
「どうした」
「すみません、爆破予告です」
 聞き終わるか終わらないかのうちに、内藤の体は動き出していた。
「よし、どこだ。今から向かう」
 場所を聞き出し、簡単な指示を出してから通話を切る。その時にはもう、地階の駐車場へ移動していた。
 中につっこんでいたグローブを取り出してヘルメットを被ろうとすると、再度呼び出し音が内藤を止めた。
「俺です」
 西脇だった。
「わりぃが事件だ。今夜は……」
「了解。実は中止の連絡です」
「わかった」
 ぷつり、と内藤は通話を切る。西脇なら最短の言葉で充分だった。連絡をくれてありがとうも、また今度とも、付け加える必要がない。今のように唐突に切っても怒ることもない。安心して仕事優先モードで話せる相手であり、そう思っていることを十二分に知ってくれているのが、西脇だった。
 そして内藤は、自分の言葉が少ないことを知っていた。それを西脇が承知していて、それも内藤は知っていた。
 ポケットに一度は仕舞った携帯電話をもう一度取り出して、リダイアルをかける。
「どうしたんですか?」
 時を移さずかかってきた電話に、西脇はいささか驚いていた。
「お前、今どこだ」
「浜松町です」
「じゃあ、駅の北口に居ろ。渡すものがある」
「了解」
 今度は西脇の方から電話を切った。通話の切れた電話を仕舞うと、内藤は胸ポケットにつっこんでいた紙切れの感触を、ダウンの上から確かめる。
 今夜ははどんなにつまらないことでもじっくり話し合おう。この関係を長く続けるために。
 だからどんなに大きな爆破予告でも、今日中に終わらせる。
 内藤はそう誓って、アクセルを大きくふかした。
― 了 ―

あとがき
 年末モノを年始に公開です(^^;
 これの後の話があったりするのですが、昨年同様、友人の年賀状に使ったので公開予定はありません。せっかくのホテルシーンですが(笑)
 書いている時は気づかなかったですが、読み直してみると友人ネタですね、これ。内藤さんの奥さんが出ているからでしょう、きっと。
 
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