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料理☆爆弾4 【ma】 後編

 池上からのメールに、高倉は全身の血が流れ落ちる気分を味わった。
『平田が倒れた』
 詳細を求めても、早く来いとしか返答がない。
 その情報の無さに、高倉は動揺を抑えきれなかった。それで何かあったと察した同行者が、何も聞かずに高倉を送り出してくれた。そのおかげで、高倉はタクシーを飛ばして議事堂へ引き返すことができたのである。
 東ゲートから裏庭を通って厨房の裏口へ駆け戻ると、そこには池上が仁王立ちで待ちかまえていた。
 まだ、隊員が夕食を摂りに食堂へ集まる時間帯である。目立たぬように、高倉はひそめた声を池上に投げた。
「平田がどうしたんだ。詳細も何も……」
 池上は応えもせず、厨房ではなく屋外の暗がりへと高倉を引きずっていく。小柄とはいえ、警備隊の一員である池上の腕力は強い。抗う気は無かったが、高倉はなんとか池上を引き留めた。
「平田は? まさか、こんなところに?」
 池上は振り返ると、しっかりと高倉を睨め上げた。
「何故、戻ってきたんです?」
「何故って、平田が大変だと、メールをくれただろう?」
「それで、どうして戻ってきたんです? いいじゃないですか、大変で。隊員はいつも大変なんですよ。狼藉者の対処で怪我をするときもあるし、ハードワークで倒れる者も居る。それなのに、どうして平田の時だけ、反応するんです?」
 言葉につまった高倉は、返答ができなかった。
 察しの良い人間に知られて一部の人間には周知となってはいるが、気持ちを誰かに告げたことは無い。
 池上も、そんな者の一人だった。それとなく告白しないのかと聞かれ、こちらも遠回しに告白しないと答えたことがある。
 だから、あえて質問する池上の意図を、高倉は掴みかねていた。
 そんな戸惑いなど知らぬとばかりに、池上は高倉を追い詰める。
「何故です?」
「それは……」
 再び、高倉は言葉を失う。言いたいことが、喉の奥に張り付いて声にできない。何度も声を発しようと試みるも、ことごとく失敗する。
 理由はわかっている。それは池上が求めている答えでは無いからだ。ごまかしのない、高倉の正直な気持ちを、言葉にさせたがっている。
 いつまでも声の出せない高倉を一瞥し、池上が口を開いた。
「正直、僕はもう、うんざりなんです。あやふやな状況で、平田に気を遣うのが」
 衝撃的な告白に、高倉は目を見開く。今までまっすぐな視線を向けていた池上が、初めて目を伏せた。
「僕は平田ときちんと向き合いたい。だから、高倉さんのスタンスを聞きたいんです。そうすれば、変に気をまわすことなく、その時最善の対処ができる。でも、高倉さんがずっとこのままなら、手助けも助言も放っておくこともできなくなる。それが悔しいんです」
 池上は、人の恋愛に口を出して引っかき回すタイプの人間ではない。何でもないフリをしながら、平田のことを一番気にかけた曖昧な行動を取る高倉に、とうとう業を煮やしたのだ。
「友人なら何も聞かなかった事にして、この場を立ち去ってください。今晩は僕が平田を引き取り、友人としての対処をします。そうでないのなら」
「そうでないのなら?」
「今、気持ちを聞かせてください。僕はそれに応じて、どうするか決めます」
 そう言うと、今度こそ池上は視線を上げて口を引き結ぶ。次に言葉を発するのは高倉しか駄目だ、という決意の元に。
 高倉が口を開きかけた、その時だった。
「それ、わたしも口出ししていいかしら?」
■ ■ ■
 人が戻ってくる気配で、平田は正気に返る。眠っていたわけではないが、ソファにもたれたまま思考が停止していた。自分が今何処に居るのか判らなかったほどである。
 頭をもたげ、ぼんやりと視線を巡らせると、思いもよらぬ人物がたたずんでいた。
 高倉である。
 夢見心地の平田は無理に相好を崩そうとしたが、横に立つ人物を認識するやいなや、その表情は固まり、一気に現実へ引き戻された。
「体調、悪いんだって? お見舞いに来たわよ」
 野田皐の笑顔に、平田は瞬時に青ざめた。絡む二人の腕に、嘔吐感がわき上がる。
「顔色が悪いわ。部屋に戻って寝た方が良いんじゃない? それとも、メディカルルームがいいかしら」
 めまいの強襲。ぐらぐらと揺れる体を制御するのに、平田は必死だった。
 周囲の雑音に、構っていられない。波打つ地面へ必死に立ち上がり、一歩、二歩と前進する。
 ほんの数メートルの距離を移動するのに、全身の力が必要だった。前のめりに倒れる勢いを借りて、皐の腕から高倉をもぎ取る。その外力を、高倉は制止仕切れなかった。受け止めた平田と一緒になって後ろへよろめき、背中を壁にぶつける。
 高倉の腕の中で、抱きかかえるようにしがみつく平田は、弱々しく、しかし、はっきりと宣言した。
「高倉さんが好きなんです。だから、盗らないでください」
 その言葉を聞いた高倉は平田を抱えたまま、ずるずると腰を床に落とす。それを見下ろして、皐はにっこり微笑んだ。
「どうするの?」
 高倉は腕の中で縮こまる平田を見下ろし、そして仰向く。答えは一つしか許さないとの無言の宣言をした皐に、目を細めた。
■ ■ ■
 チーフルームから平田を自室へ送り届けた高倉は、同居人が不在だったこともあり、すぐに辞去しなかった。
 ベッドに横になった平田の側で取り乱した原因を聞き、予想外の理由に目を見開く。
「俺が、野田さんの間男だって?」
「いや、高倉さんの名前は聞かなかったけれど、話を聞いたその日のうちに、公園で野田さんと一緒のところを見て、そう思いこんじゃって……」
 平田の声はどんどん尻すぼみになっていく。勘違いに恥ずかしくなったのか、あわてて目を伏せる。
「ごめんなさい。高倉さんがそんな人なわけ無いのに」
 申し訳ないと見上げてくる視線に、高倉は苦笑を漏らす。
「いや、一概に全くの勘違いとは、言えないんだ」
 思いもよらない否定の言葉に、平田は目を見開いた。あわてて高倉は言葉を繕う。
「今度、売店の女の子が結婚を機に辞めてしまうんで、隊の女性陣がブーケを作ることにしたんだ。以前俺が、修行の一環でハーブの花束を作ったことがあると言ったことを野田さんが憶えてた。それでブーケ作りをレクチャーしてくれと頼まれたんだ。今日は、その材料を買い出しに行く予定だったんだよ」
「じゃあ、マオトコっていうのは?」
「中世ヨーロッパでは、ハーブを薬に使う知恵を持つ老婆を魔女扱いされていたことを、野田さんは知ってたんだ。それで男の魔女で『魔男』って言われてしまったんだ。言葉の響きが愛人の間男と同じだから、いい話のネタになったんだろう」
「そっか。そうだったんだ。俺って間抜けだなぁ」
 真実を聞いて安心した平田は、ほっと息を吐く。高倉は、平田の前髪を掬うように撫でる。それから、平田の左手を両手でしっかりと包み込んだ。
「好きだ」
 突然の告白に、平田は息をのんだ。声もなく、一心に高倉を見つめる。高倉の方も、すらりと声が出たことに内心驚愕していたぐらいだ。だが、それをおくびにも出さず、告白を続ける。
「『マ』の無い男だから料理しかできないけど、ずっとそばに居て欲しい」
 一気に平田の目が潤んでいく。滴がこぼれないように見開いていたその両目から、ほどなく、瞬きとともに涙をこぼした。
「はい。俺でよければ」
 平田は、もう一方の手を、高倉の手に添える。
 二人の距離が、やっと無くなった瞬間だった。
■ ■ ■
「お疲れ様でした」
 食堂に待たせていた池上へ微笑みを返した皐は、向かいの座席に腰を下ろす。自分で運んだコーヒーで口をしめらせると、ほっと肩の力を抜いた。
「何とかまとまったわ。今、高倉くんが部屋へ送っていってる。ごめんなさいね、しゃしゃり出ちゃって」
「そんな。こちらこそ、ありがとうございます。お手を煩わせてしまって」
「いいの、いいの。ちょっとヤボ用で、高倉くんにはお礼しなきゃいけなかったから」
 皐はひらひらと手を横に振る。それから、人影がまばらな食堂内をさりげなく見回してから、声をひそめた。
「それに、もどかしかったのよね」
 その台詞に、池上はかすかに目を見開いた。ささやくように、声を落とす。
「もしかして、知ってました?」
「もちろん。私、ちょっと敏感なのよ。義弟が本木にもらわれて行く予定だから」
 満面に笑みを貼り付けた皐は、ふいと顔を上げた。声を弾ませ、食堂の出入り口に向かって大きく手を振る。
「優弥さん!」
「皐さん、帰ったんじゃなかったの?」
「ちょっと、忘れ物しちゃったの」
 小走りに駆け寄ってきた夫にそう答えた皐は、密かに池上へウインクしてみせる。
 おしどり夫婦を微笑ましく眺めた池上は、晴れやかな気分でコーヒーカップを傾けた。
― 了 ―

あとがき
 2008/11/23のイベントで、合同誌として出させていただいた本の、廣田の作品を再録しました。
 この頃、33巻でうささんにマッサージしてやると言われた平田に「いいな~」と言っているモブ君に“四始朗”と名前をつけて遊んでました。
 プロフィールとしては、愛称は“ミミオ”。幼少の頃にシシを“ミミ”としか書けずについたあだ名で、本人は結構気に入ってます。四始は元旦を指すので、誕生日は一月一日。平田とは小学校時代の同級生で、中学からは別れ、訓練校で再会と同時に“ミミオ”も復活という経歴の持ち主です(笑)
 
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