「おめっとさーん」
「おめでとうございます」
そんな新年の挨拶が飛び交う食堂で、植草はテーブルに突っ伏すようにして、一枚の紙片を、穴が空くほど見つめていた。
新年の特別メニューのランチに手を付けるのも忘れるほどに植草の心を奪っているのは、宇宙人からもらったという宝くじだ。
『521999』という番号が印刷されており、裏には『うえぽんへ 冠』と走り書きされている。そのため、この一枚の紙切れが宇宙人からのプレゼントだといくら植草が言い張っても、それを信じる者は一人もいない。「元旦から不思議チャンだなぁ、植草は」と言われるのがオチなのだ。
そんな植草の正面でランチを食しているのが、今回のいたずらをしかけた冠である。
年が明ける直前は、とんでもなく宇宙人と交信しやすい時間帯だなどと言ってそそのかし、屋上にて宇宙人を呼び出す儀式を植草にさせていたのだ。
そのあげく、自分は宇宙人だと言って登場して宝くじをプレゼントした。そして一度姿を隠してからいけしゃあしゃあと『冠』として登場するという、「一体お前は何をしたいんだ」という行動をやってのけたのである。
そしてタチの悪いことに、冠はこのいたずらに関して何も植草に告げない。それが更に、周囲の者の『植草は不思議チャン』という認識を色濃くしてしまっていた。
その冠が箸を止め、植草の手から宝くじを取り上げると、早口につぶやいた。
「ウゥ、アァ、イー、ジィウ、ジィウ、ジィウ」
「くぁんさん、何?」
「んー? 数字読んだだけ」
「ふーん」
宝くじを見つめる冠を、植草はじっと見つめる。
数回ゆっくりと瞬くと、冠は改めて植草に視線を向けた。
「なぁなぁ、うえぽん。正月休みはいつ取るんだ?」
「適当に取ろうとは思ってますけど、まだ決めてないです」
「じゃあさ、俺と休み合わさない? それで一緒にチュンジエに中国行こう」
んー、と少しだけ首を傾けた植草はこくりと頷く。その返事に、冠はぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ、俺の両親に会わせるから。とーちゃんは気むずかしいけど、うえぽんならすぐに馴れるよ」
宝くじを植草に返した冠は、朗らかな笑顔でランチを平らげていく。植草はと言えば、戻された宝くじを手に、冠を再びじっと見つめだしたのだった。
『チュンジエ』とは何か。
そのことだけに思考を占拠させ、宇宙人のことなどすっかり忘れて。
― 了 ―