ジルコン

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[06]料理☆爆弾
     
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[01] 認められない理由
   

その他

料理☆爆弾2 ~たった一人の料理人~

 親友の元気がないようだと池上が話を聞いたのは、夜勤の小休止なのか、急に部屋へ戻ってきた岸谷からだった。
 その岸谷はエプロンを外してベッドに腰掛け、上半身を起こした池上の髪を優しく指で梳く。
「先週は元気だったよな?」
「うん。寂しがるかなと思ってたけれど、修行の成果が楽しみだって言ってた。寂しさよりも新作の方が重要みたいだけど。──今、来たの?」
「ああ、夜勤だそうだ」
 頷いた岸谷は、少し躊躇してから、言葉を続けた。
「実は、昼番からの申し送りに、名前が載っていた」
 その言葉に池上は眉をひそめた。調理班が当番の交代時に行う申し送りには、食材の消費量を記載したリストなどの他に、食欲不振者を書き出したリストも含まれている。
 隊員個々の食事量は違うし日々の環境に左右されるため、これだけの量を食べられなければダメだという基準はない。しかし、過去の状況と比べて明らかな食欲不振が続く酷い状況であれば、最終的に医務班やカウンセラー、所属の班長などに報告が行くシステムができあがっている。
 だが、最終段階までたどり着く例はあまりない。そこまで酷くなる前に、調理班の人間が当人にさりげなく声をかけたり、友人関係に注意を促すなどして、問題解決を図るからである。
 突如としてその当事者となってしまった池上は、親友のひととなりを思い浮かべた。
「高倉さんの料理じゃないから、なんて理由じゃないと思うんだけど」
「そんなわがまま言うなら、俺が無理矢理食べさせてやる」
 その言葉で二人が出会った頃を思い出して、池上は小さく微笑んだ。その頬に唇をよせた岸谷は、名残惜しげにベッドから腰を上げる。
「頼んでいいか?」
 もちろん、と池上は頷く。その頭を優しく撫でてエプロンを肩に部屋を出て行く岸谷を見送ってベッドに潜り込んだ池上は、小さく息を吐いた。
「平田の食欲が無いなんて……」
 「三度の飯より食事が好き」「食欲がない日の翌日は槍が降る」と言われる本木ほどではないが、平田に食欲がないという話は、池上に少なくはないショックを与えていた。
 平田は、熱があっても食欲は無くならないという健啖家である。そんな彼が食欲を無くすなんて何があったのだろうと想像するも、池上には何一つ理由が思い浮かばない。冗談で唯一思い浮かんだのが、先ほど岸谷に言った「高倉がつくった料理じゃないから」だけだった。
 現在、高倉は先週から二週間の予定で出張中である。官邸警備隊隊員寮や訓練校生寮などの重要施設に関わる調理担当者の交流活動の一環として、年に一度、他所の調理場へ出向く行事が行われていた。目的には、大人数料理に関する技術交換や、重要施設における調理班の位置づけに関する意見交換なども含まれている。高倉は今年の担当者となり、都外の施設へ泊まり込んでいた。
 その高倉は平田に思いを寄せている。本人が白状したことではないが、岸谷はずいぶん前からそれを見抜いていた。そして、平田が高倉をにくく思っていないことを、池上は付き合いの長さから感づいてもいる。
 催眠状態に陥った平田の手による爆弾設置事件があって後、高倉は気持ちを打ち明けないことを決めたらしいと、岸谷はもらしたことがあった。それを聞いた池上は、平田は高倉の気持ち以前に自分の気持ちも気づいていないようだと相談した事もある。
 そんな外野を他所に、当の本人たちは、気のいい友人の関係を続けていた。高倉は試作品をつくり、その味見を平田が行う。休みが合えば話題の飲食店へ連れ立って出かけていく。そんな二人の関係を時に歯がゆく、時にうらやましく池上は眺めていた。
「高倉さんがらみなのは、間違いないはずなんだ」
 声に出さず呟く。まずは明日の朝、夜勤明けの平田を捕まえようと予定をたて、池上は目をつむった。
■ ■ ■
「日曜日の平田ねぇ」
 深津は首を捻って軽く唸る。
 岸谷から平田を任された池上は、予定通り翌朝、食堂で平田を捕まえた。平田が持つトレイには味噌汁が一杯だけという、池上には信じられない状況だった。
 それを自分でも変だと思っている平田だったが、理由を尋ねられてもはっきり答えることができない。ごまかしているわけではなく、本人にもさっぱり理由がわからなかったからである。
 そこで池上は、二日前の日曜日に平田を連れ出した、休憩中の深津を捕まえたのである。アイドルオタクで知られる深津が属する趣味サークルは、新人アイドルを囲んだ食事会などのイベントをよく企画している。当然深津もできるかぎりそれに参加していて、日曜日は頭数が足りないからと、その食事会に平田を枯れ木代わりに連れ出していたのだ。
「特に変わった事はなかったけど」
「けど?」
「会場のレストランで、彼女連れの高倉さんに会った」
「彼女?!」
 目を丸くさせた池上に、好奇心に満ちた子どものような笑みを浮かべた深津は頷いてみせた。
「たぶんな。高倉さんはフランスでの修業時代の同僚だって言ってたけど。平田の様子がおかしいのは、それでじゃないか? あの時は普通な感じだったけど、やっぱりショックだったのかもな。高倉さんに彼女ができたら、一緒にレストラン巡りする楽しみが無くなるだろ。二人の時間を大切にしてやらないと、高倉さんが振られちゃうもんな。友達ならその辺を察してやらなきゃならないだろ、やっぱ」
 そんな見解に無理矢理作り出した笑みで曖昧に応え、池上は深津と別れた。
 平田の様子がおかしくなったのは、高倉と女性との遭遇であることに間違いないだろう。
 高倉の気持ちを考えれば平田の早とちりであることは明白で、簡単に片が付くように思えるが、そうは問屋が卸してくれない。
 最も気の合う友人という認識しか自覚していないらしい平田に、第三者が真実を告げても意味がないからだ。現状から抜け出すには、平田が自分で気づくしか無いだろう。
 そう、池上は結論づけた。
 となれば、第三者が手を出すのは控えるべきだ。当事者から助けを求められるまでは。それに、あと数日もすれば高倉の出張も終わり食堂へ戻ってくる。現状に終わりが来るのも、時間の問題だ。
 しかし、どのような決着がつくのか、池上には想像がつかなかった。気持ちを伝えないと決めている高倉は、平田が誰を見ているのか気づかないよう心がけている。気持ちを伝えないということは、諦めるということとイコールではないからだ。そんな高倉は、己の心に気づいていない平田とどう対応するのか。
「思い切って言っちゃえばいいのに」
 そうすればきっと、丸く収まるのだ。だが、決めるのは高倉だ。余計な口出しはすべきではない。
 池上は重い息を一つ落として、時計を確認する。
 もう半時間もすれば、自分の勤務時間が始まる頃合いとなっていた。
 高倉が戻るまでにもう一度、ゆっくりと平田と話をしたかった池上だったが、勤務スケジュールの都合上、それはもう、叶いそうにない。
■ ■ ■
 アクシデントにより終業時間が大幅に遅れた池上が食堂へ戻ってきたのは、そろそろ夜半になろうという時刻だった。
 時刻が時刻なだけに訪れる人も少なく、また岸谷との仲も公認であるため気後れする必要は全くない。しかし、堂々と食堂を通って愛の巣であるチーフルームへ行くことにまだ馴れない池上は、外警班の外の詰め所から戻るのに便利なこともあって、出入りには調理場の裏口を利用している。
 いつものように裏口から調理場へ入った池上は、しゃがみこんで耳打ちしあっている岸谷と松の姿を発見した。
「鷹夜さん?」
 二人につられ声も姿勢も低くなる池上を、岸谷は「静かに」と合図しながら手招いた。
「どうしたんです?」
「まあ、見てみろ」
 岸谷に促されるままに、池上は什器の陰から食堂内を見回すと、二つの人影に釘付けとなった。
 平田と、出張中のはずの高倉だったからである。
 高倉は明日の日曜の夜に出張から帰ってくる予定だった。それを一日前倒しにして帰ってきたのである。
 向かい合って座る二人に挟まれたテーブルには、小ぶりの重箱らしきものが広げられている。そこから料理を少し取った皿を、高倉が差し出す。
 それを遠慮がちに受け取った平田は、おずおずと箸を伸ばし──料理を口に運んだ。まるでスイッチが切り替わったかのように顔をほころばせた平田につられ、高倉が静かな笑みをもらす。
 その様子を息をひそめて見守っていた池上へ、岸谷がささやいた。
「まさか本当に、高倉の料理じゃなきゃ食べなかったとはな」
 冗談口調に、ほんの少しあきれの色が混ざっている。だが岸谷の顔には安堵の色が浮かんでいた。
「高倉には水曜に連絡をとっていたんだ。こんな簡単に、平田に食べさせることができるなら、意見なんか聞かずに、無理にでもこっちへ戻せば良かったかな」
「意見って……高倉さん、戻らないって言ったの?」
 池上の問いに、岸谷は頷き返した。
「ただの交流会でも、料理のことで手を抜いたら、何もつくれなくなるってな。でもまあ、一日前倒しで手料理持って帰ってきたってことは、高倉なりの考えと葛藤があったんだろう」
 時折、顔へ手を添える平田は、ついばむようにちまりちまりと、だがしっかりと高倉の料理を口に運んでいる。
 それをしばらく眺めていた池上は、ふと思い出したように隣の岸谷の袖を引いた。
「鷹夜さん。実は、僕もお腹が空いているんです」
 そう耳打ちした池上の髪をくしゃりと撫でて、岸谷は「わかった」と微笑んだ。
― 了 ―

あとがき
2006/6/11のイベントで、合同誌として出させていただいた本の、廣田の作品を再録しました。
 GDとは関係のないサイトさまで、本人たちは全く出てきていないのにらびゅーんな内容の作品を拝読し、「よし、今回の高平はこれを使わせていただこう!」とできあがった作品となっています。ですので、高倉も平田もまっとうには出てきていません。見た目は熟年カップルが主役の作品です(笑)
 
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