ジルコン

G-DEFEND ファンコンテンツ

アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

その他

Don't cry,my Blue.

7
「マーティ、いいんですか?」
 そう問うと、先行するマーティの体がわずかに揺れた。微かな、用心深く見つめていないとわからないほどの変化だ。それを見つけた私は、心中で毒づく。
 きっとマーティは、私の発言はアレクに絡んだものだと思ったに違いない。その意図が無かったとしても、もう少し発言を選ぶべきだったのだ。
 私は取り繕うように、もう一度口を開いた。
「体は、大丈夫ですか?」
 そのように言い直すと、マーティの変化はようやくおさまった。これも、よく見ないとわからない変化だったが。
 そのマーティは、踵を返すと私に頭を深く下げた。
「はい、大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありません」
「いや、それはいいんです。本当に大丈夫なのですか? 顔色が良くないようですが……」
「大丈夫です、勤務に支障ありませんから。直ぐに着替えてきます。中央で、よろしいですか?」
「ええ、中央に行くつもりです」
「わかりました。すぐに行きますから」
 もう一度頭を下げ、マーティは駆け出す。残された私は溜め息を一つだけ吐き出して、待ち合わせ場所である中央管理室へと向った。

 正直、どうすればいいのか私にはわからなかった。いつも通りに接しておけばいいことはわかっている。
 だが、何故か放っておけないのだ。むやみやたらに気を張りつめるマーティを。
 その緊張感は、マーティがわざと城を避けた回数よりも、城がマーティに声をかける前にひるんだ回数が多いぐらいだ。
 そんな城と、私は何度か目が合ったが、相手から何か投げてくることはなかった。自分で解決したいのだろう。ならば私は、手を出すべきではない。
 それはわかっているのに、できることは無いかと探す私もいる。
 放っておけない。マーティを。
 放っておけるわけがない。蒼い瞳の持ち主を。
 放っていられない。過去のことは解決したにもかかわらず。
 だから私は、慎重に巡回ルートを決める。
 寮に近づかないように。
 開発室へ、近づかないように。
 ──だが、私の悪あがきは、もうすぐ終わりを迎える。石川隊長と岩瀬補佐官との交代の時間が迫っているためだ。
 時間が無くなる程に、もやもやと胸の奥に湧き上がるモノが増えていく。それは気にするな、無視しろとささやく理性をかすませ、私がマーティを盗み見る回数を増やしていく。
 あと十分もすれば待ち人が現れるだろうという頃、盗み見ていた視線が、マーティのそれとかち合った。
「あ……」
 そのまま視線を反らし、知らぬ風を装うことはできたはずだった。だが私の行動は、あからさまに怪しすぎる呻きを漏らすことしかできなかったのだ。
 視線を反らすこともできずに、マーティの双眸を見つめる。
 どうすべきか脳を動かそうとするも、重く凝り固まって上手いアクションが思い浮かばない。
 そんな状況でやっとひねり出した答えは、やはり情けなくも言葉を継ぐことだった。
「その」「あの」
 マーティと同時に声を発してしまい、またも黙り込む。
「──なんです?」
「いえ、副隊長からどうぞ」
 順を譲られてしまい、私はまたも悩みの海に突き落とされた。特に何かを話したかったわけではない。思わず声を出してしまっただけなのだ。だからマーティに喋らせて、私の方はうやむやにしてしまおうと思ったのだが、それも叶わなくなった。
「その──もし良ければ、私の部屋で一杯付き合いませんか。私がここへ来る以前の警備隊や、君がいたロスの警備隊の話を聞きたいんです。そう堅苦しいことじゃなくて。思い出話でも聞かせてくれたらと思うんですが……」
 慌てて取り繕ったが、我ながら情けない言い訳だ。思い出話と言えば、アレク・サカモトにつながる話も多いはずだ。それを話したがる訳が……。
「いいんですか?」
 その応えに、私は改めてマーティを見つめる。マーティはその視線を避けるように、少しだけ顔をうつむけた。
「いえ、あの、実は……部屋に、戻りづらくて……」
 だんだんと細くなる声を止めようと、私はマーティの肩を軽く叩いた。
「ありがとう」
 そう言うと、マーティはぺこりと頭を下げた。
■ ■ ■
「──で、コル・ヒドレの隠れ家は全壊しちゃったんですが、その瓦礫の中から隊長を助け出したんですよ!」
 無駄にテンション高いな──アルコールで思考は軽くしびれているはずなのに、私は自信を冷静に分析していた。まるで、もう一人の自分が背後から観察しているような錯覚さえも覚えるほどだ。
 バカだと思う。アレクから逃げて、城からも逃げて、そして篠井さんの部屋に逃げ込んでいる。
 逃げたって意味がない。わかっているのに、逃げることが止められない。声高に、あからさまにアレクを避けた話をして。何度もループして。飲み干したグラスの数も憶えていなくて。でも、逃げたくて。へらへらと笑っているしかできなくて。グラスを空にするしかなくて。
 こうやって冷静に自分を見つめているのに、自分を制御できない。
 私はバカだ。バカだ。バカだ……。
「コル・ヒドレのことは聞いていたが、あれは岩瀬の活躍があったんですね」
「そうなんです。SP養成コースの後輩として、鼻が高いんです」
「そうだな。あんな先輩なら、私も鼻を高くするだろうな」
 グラスをまわして氷の音も楽しむ篠井さんは、さりげなく自分の鎖骨の辺りを短く撫でる。
 ──また、だ。
 これで何度目だろう。私が気づいてから数えても、もう二桁はいっているはずだ。おそらく無意識の行動、クセなのだろう。大きくあいた襟ぐりから見え隠れする、首に掛けられたチェーンを撫でるのは。
 しょぼつく目を瞬きながらグラスを傾ける。しかし、そこにはもう、私が望む液体は残っていなかった。
 中身がずいぶんと無くなったジンの瓶に手を伸ばすと、篠井さんがその手首を掴んだ。
「もう、やめておいた方がいいですよ」
「これだけしか残ってないから、どうせなら全部飲んだ方がいいですって」
「ほとんど自分一人で飲んでおいて、なにを言っているんです」
「そんなことないですよ。二人で飲んだんですから」
「私はこれが三杯目です」
 言って、氷がそれほど溶けていないグラスを軽く振る。
「もう寝なさい。立てますか?」
 篠井さんは私からグラスを奪うと、抱えるようにして私を立たせ、すでに用意してある作りつけのベッドへ私を寝かせにかかる。
 寝かされる私の目に、篠井さんの首筋が入った。もちろん、気になっていた鎖も。
「篠井さん」
「なんです?」
「その鎖、なんです?」
 ブランケットを掛けてくれながら、篠井さんはさらりと答えた。
「部下の形見です」
 答えに私は首を傾げる。
「部下? え? だって、篠井さんは味方から死者を出したことないって……」
「正式な部下じゃないから、皆知らないだけなんですよ。君と同じ色の目をしていた。だから……辛そうなマーティを見ると実は、ちょっと辛いんです」
 篠井さんは小さく、だが優しく微笑むと、私の髪を数回、指で梳く。
「もう寝なさい」
 言われるままに、私は目を閉じる。
 ほどなく私は、安らかな眠りに落ちていた。
 篠井さんを悲しませたくないな──ぼんやりと、そう思いながら。

 翌日、目を覚ました私に、篠井さんはこの部屋のキィを渡してくれた。好きなだけ居ていいと。何も尋ねられなかった。今朝も、昨晩も。
 その好意に、素直に甘えることにした。私には今、居場所はどこも思い付かなかったから。
 アレクのことを考えないで済む場所に居たいと心が欲したから、それに従いたかった。
 
zilcon  - Copyright (c) Koh Hirota Since 2002
No reproduction or republication without written permission.
All fan-fiction is not to be used without permission by the author.