ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

西やんと内藤さん

kiss

2.Vulgar(内藤ver.)
 DG委員会へ出向いた帰り、突然、議事堂に寄ろうと思い立った。
 急ぎの用事があるわけではないが、何となく西脇の顔を見たくなったからだ。
 とりあえず言い訳を考える。新車のお披露目に……なんて、ガキじゃあるまいし。
 新緑の精気にでも当てられたのか、気が高ぶっている気がする。朝から落ち着かないのも、急に西脇の顔を見たくなったのも、その所為かもしれない。
 躊躇もしたが、一度思い付いてしまうとどうしても押さえが効かなくなっていた。
「──そうとうイカレてるな」
 苦笑混じりに呟いて、バイクの鼻先を議事堂へ向けた。

 通用門前でバイクを止めると梅沢が慌てて走り寄って来る。相変わらず、反応が遅いなぁ。
「内藤さんじゃないですか。バイクが違うから誰かと思いましたよ」
「この間の事故でおシャカにしたんでな。買い換えたんだ」
「そういえば……もう、大丈夫なんですか?」
「不本意ながら、ゆっくりさせてもらったからな」
 お預かりします、と梅沢にバイクを奪い取られたところで、唐突に西脇が現れた。出入り業者のトラックの点検で近くにいたらしい。十数メートル離れたところに停車中のトラックの影にいて、俺からは見えなかったようだ。
 ここで俺の目的「西脇の顔が見たい」は果たしてしまったわけだが、このまま回れ右をするわけにはいかない。バイクを奪われる前なら、「ちょっと寄っただけ」でUターンもできたのだが……。まあ、仕方ない。適当に情報交換でもして帰るか。
「どこかの帰りですか?」
「委員会だ。何故わかる?」
「おめかししてるから」
「おめかしって……単にスーツ着てるだけじゃないか」
 さすがに、よれよれシャツにノーネクタイでは、DG委員会へ行くわけにはいかない。俺だってそれぐらいの判断はつくから、「委員会セット」と称してロッカーにスーツの上下をそろえている。そのセットの中には、整髪料もあったりするのだ。
「髪も整えていますしね。メットで崩れていますけど。普段の鳥の巣よりはマシです」
「いつもはそんなにひどいのか」
「ええ、もうとんでもなく。今の内藤さんは、馬子にも衣装が服着て歩いているようなものですから」
「酷い言われようだな」
 俺の襟元に目をとめた西脇は、「だって」と呟く。
「悪趣味だなんて口が裂けても言えませんから。自分で選んだんでしょ?」
 ライダージャケットの襟元からのぞくネクタイを、西脇は指す。
 出がけにコーヒーをこぼしてしまい、代わりが無いため仕方なく行きがけにコンビニで買ったものだ。
「ほっと……」
 ほっとけ。そう言って西脇の髪をぐちゃぐちゃにしてやるつもりだったが、できなかった。
 ガツン、と何かが地面に落ちた音に、俺と西脇の動きが止まる。
 見やれば、長さが三十センチほどの金属製のカプセルが俺から数メートル先の地面を転がっていた。
 視認と同時に、カプセルからもの凄い勢いで煙が噴出する。
「内藤さん!」
 カプセルに背を向けた西脇は、俺を遠ざけようとトラックの方へと押しやる。
 異常事態に、近くにいた隊員が敷地外へと走り出していた。
 西脇は俺をガードしながら、無線を使って指示を出す。
 その目が、何かを捕らえた。僅かに見開かれた西脇の目に反応し、俺もそちらを見る。
 作業服を着たトラックの運転手らしき男が、逃げ出す後ろ姿が見える。
「あの男……」
 西脇がつぶやいた瞬間、俺の体はこの男の腕の中だった。
「みんな、トラックから離れ……!!」
 刹那。西脇の声をかき消すように轟音と爆風とがトラックを吹き飛ばす。
 唐突に、俺の意識はぷつりと途切れた。

 スイッチを入れられたかのように、いきなり目が覚めた。
 周囲は、薄暗い闇に包まれている。
「ここは……つうっ」
 上体を起こしただけで体がきしむ。知らず手が触れた頭には、包帯が巻かれていた。
「大丈夫です?」
 そっと、背中に手が添えられる。
「一応……な。ちょっとびっくりしただけだ」
 俺の返事に、西脇はほぅと息を吐いた。
「額の切り傷の他に、かすり傷と打ち身が何カ所か。頭も打っていたのでCTで調べてもらいました。今のところ異常は無いそうです。ただ、今日は泊まって行けとセンセイが。氏木さんには連絡済みです」
 そこでやっと、テロに巻き込まれたのだということに思い至った。ということは、ここは議事堂の医務室らしい。
「退院したばかりだというのに、申し訳ありません」
「そんなことはどうでもいい。西脇、お前は大丈夫なのか?」
「俺は大丈夫ですよ。普段鍛えていますから」
 微笑む顔には、べったりとガーゼが貼り付けられている。
 俺を庇ったのだから、無事で済むわけがない。絶対、見えないところに大きな傷を受けているはずだ。
 なのに、何も言わずに微笑む。
 普段は歯に衣着せぬ物言いをするヤツなだけに、罪悪感で胸のあたりがギリギリと痛んだ。
「帰る」
 ベッドから降りかけた俺の肩を、西脇は優しく、しかししっかりと押し返す。
「何を言っているんです。大人しく寝てください」
 その言葉に、間近に迫る西脇を睨め付けた。
「ハン! そんなことできるか。この俺が黙って寝ていられるか!」
 煮えくりかえるはらわたが口からあふれ出ようとするのを、俺は必死に抑えていた。
 この怒りはテロリストに向けられたものではない。これは、自分自身に向けられた憤怒だ。
 西脇を守っているつもりでいた。なのに、逆に守られて怪我を負わせて……。
 俺は、バカな天狗野郎だ。
「だから帰る。俺が犯人をとっ捕まえてやる」
「怪我しているのにどうして、そんなに血の気が多いんですか」
 西脇はぽつりと呟いて、睨み付ける俺の視線から目をそらした。
「血の気が多いとか多くないとか、そんなんじゃねーんだよ」
「──仕方ないですね」
 大げさなほどに肩を落とした西脇に、俺は勝利を確信する。
 だがしかし、西脇は俺以上の笑みを向けた。
「眼鏡と財布と携帯。ついでにバイクのカギ。これが無くて構わないなら、どうぞ帰って結構です」
「えっ? ──ああっ!」
 慌てて周囲を見回して、体のあちこちを触りまくる。顔にも尻ポケットにも、そしてベッド周りにも捜している『もの』が無い。
 それよりもまず、着ている物が違う。今身にまとっているのは見覚えのない入院服だった。
「どこだ!」
「何がです?」
「全部だ!」
「隊長に預かってもらっています。取りに行くと言うのなら、ベッドに縛り付けますよ?」
 この一言であっさり勝負は決した。隊長の石川にまで話が通っているということは、西脇から逃げおおせても百を越える隊員が行く手を阻むことになるだろう。それだけの数を相手に逃げ切れるとは思えない。
 完全に、俺の負けだった。
「さ、もう寝てくだい」
 勝利を確信した西脇は俺の肩を押した。俺がその手を掴む。
「すまない」
 手には、厚く包帯が巻かれてあった。
「内藤さんの所為じゃありませんよ」
「すまない……」
 白い布越しに、手のひらへ口づける。手首に唇を這わせると、そこも包帯に包まれていた。
「内藤さん……?」
 腕を引いて引き寄せ、ガーゼの上から頬に唇を寄せた。
 ツンとした消毒薬のにおいが鼻をくすぐる。
「顔も、傷物にしちまったな」
 一度ついばんで、しっかりと重ねる。西脇の唇は薄いのに、男のそれとは思えないほどに柔らかい。
 もっと深く味わうつもりで頭を抱きしめようとしたところで、西脇は俺をベッドに押しつけた。
「もう寝てください。傷に障ります」
 穏やかな声でそう告げる。そしてくるりと背を向け出口へ向かった。
「──内藤さん」
「なんだ?」
「やっぱり、あなたは悪趣味です」
 そう言った西脇の顔は、闇に隠れて見えない。
 部屋を出て行くとき一度だけ振り向いたが、その時の顔はいつものように余裕の笑みをたたえていた。
「大人しく寝ていないと、アレクにバイクをプレゼントしますからね」
「それだけは止めろ! 買ったばかりなんだぞ!」
「だったら、大人しく寝てください。明日は八時に起こしに来ますから」
 そうして、西脇は去っていった。
「──手強いヤツ」
 呟いて、ブランケットを頭まで被る。
 遠ざかる西脇の声を子守歌代わりに、俺は眠りに落ちた。
― 了 ―

あとがき
 内藤さん、また病院送りですか? 今度は西やんまで怪我させているし。いちおう、二人に対する愛情はあるんですよ。本当は胸が痛いんですが……って、言い訳はそらぞらしいです?(^^;
 今作は四作品中二番目に思いついた内容で、『リンゴ』の半月後ぐらいです。『kiss』は時系列で書いていく予定なので、次回作は今作から少し経った時期の話となります。
(2004/12/18)
 
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