ジルコン

G-DEFEND ファンコンテンツ

アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

その他

ももいろ、みずいろ、こはくいろ。

 二段飛びで階段を駆け上がり、地下鉄の駅構内から地上へと飛び出す。そして、有名な街頭ハイビジョンが張り付く建物を見上げた。
 その建物のもっと上に広がる空は、せっかくの日曜日だというのにシトシトと滴を落としてばかりで薄暗く、すでに一週間も太陽が顔をのぞかせていない。しかし深津貫の顔には、ここだけ季節外れのような春の陽気にも思える笑みが張り付いていた。ここから南へ約十分の場所に、その理由が待ちかまえているからである。
 もうすぐだ。そう思うだけで深津の相好は見る間に崩れ、最後に残った緊張の欠片も溶け崩れていく。
 二交代制シフトであること、そして突発事故などで思うように休みが取れなかったことなどが重なり、深津が『これ』に参加できることとなったのは数ヶ月ぶりだった。前回はバレンタインデー直後だったから、およそ四ヶ月ぶりのことだ。
 配属されたルーキーは、二ヶ月も経てばあらかたの失敗をやり終えてくれる。国会もとりあえず終わった。本気で羽を休めることができるのは一体何ヶ月ぶりだろうかと深津は指を折り、カレンダーが昨年まで遡ったところで深津はカウントを止める。
 落ち込むような事を考えるのは止めるべきだった。テンションは下げるのではなく、上げられるだけ上げておくに越したことはない。
 そんな決心で深津は傘を改めて握りしめ、丁度青に変わった横断歩道へ足を踏み出す。
 雨天のお陰で人通りはいつもより少ないが、それでも人込みを気にせずまっすぐ進むことは無理だった。そんな雑踏をひょいひょいと避けながら、深津は目的地へ突き進む。
 建物に沿って右折しようとしたその時、コーナーの向こうから小柄な影が飛び出して来た。胸に飛び込まれた深津はたたらを踏むも、なんとか持ちこたえる。
「きゃあっ」
 体勢を崩した小さな影の腕を、深津は慌てて掴んだ。
「ごめん、大丈夫?」
「こちらこそ、ごめんなさい」
 足下に注意しながら深津が腕を放すと、ボブカットの少女はぺこりと頭を下げた。そして思い出したように振り返り、首をすくめて縮こまる。
「どうかした?」
「いえ、その」
 深津は少女が見やった方へ視線を向ける。百メートルほど向こうにある広場で、数名の男たちが傘の海に見え隠れしていた。少女と同じ歳らしき高校生ぐらいから二十代後半あたりとおぼしき男たちは、人を捜しているようなそぶりで辺りを見回している。見た感じは普通の一般人で、タチが悪いような者たちには見えない。
 深津が建物の陰へ促すと、少女は素直に従った。
「ストーカー?」
「いえ、違います」
「でも、追われてはいるんだろ?」
「追われているというか、なんというか……」
 返答は何故か歯切れが悪い。
 言葉遣いやちょっとした仕草から、この少女に育ちの好い清澄な印象を深津は受けている。どう見ても追跡されているのに、この少女がそれを隠そうとすることに疑問を覚え、深津はさらに質問を続けた。
「困ってはいるんだ?」
「ええ、まあ」
 やはり、少女は言葉を濁す。
「知り合い?」
「違います」
 この質問には、きっぱり答える。
「あいつら、まけばいいわけ?」
「できれば。でも」
「でも?」
「できればここから、離れたくないんです」
「人と待ち合わせでも?」
「いいえ。行きたいところがあるんです。タクシーを使えばいいんでしょうけど、どうしても徒歩で行きたくて。きちんと新宿駅から出発しないと迷いそうなので……」
 少女はポケットから、プリントアウトしたらしい地図を取り出した。中央に新宿駅。そしてそこから少し離れた位置を指し示す。
「そこか」
 確かにそこは、徒歩で行けないこともない。地図もあるから迷うこともないだろう。
 だからといって地図頼りの少女を、「ではサヨウナラ」と放り出すことに、深津は抵抗を感じる。
 贔屓にしているアイドルのインストアライブを応援しに行く途中だった。出がけのアクシデントを何とか乗り越えてここまで来ることができた、四ヶ月ぶりのイベント参加である。そんな自分が来るのを、仲間が今か今かと待ってもいた。そして、開演時間まで三十分を切っていて──。
「ある意味、職業病かな」
 つぶやきを聞き返す少女に笑って、深津は首を横に振る。
 それは諦めではなく、心中の「バカだなぁ」という自画自賛の結果だった。
「俺で良ければ道案内するよ。ついでにあいつらをまいちゃおう」
■ ■ ■
「ようこそ、新宿御苑へ」
 そんな文句の看板の出迎えを受け、深津と少女は国民公園の敷地に足を踏み入れていた。
 御苑は新宿駅から南東へ徒歩十分ほどで到着できる距離である。しかし少女の追跡者をまくという目的もあったため、かなり時間がかかってしまっていた。大きな回り道は避けたいとのことだったので、三番出口から入った地下鉄の駅を四番出口から出たり、路地を一本逸れたりといった程度しか実行できなかったが。
 少女は木花ちえりという郡山に住む高校生だと、深津に名乗っていた。早朝の高速バスに乗り、先ほど新宿に到着したという。
 ちえりの両親が恋人同士だった当時、二人は東京に住んでいて、お気に入りの場所がある新宿御苑でよくデートをしていた。復路のバスが新宿を出発する夕方までに、ちえりはその『お気に入りの場所』を探し出すつもりだったのである。
 手がかりは、ちえりの両親が写っている一葉の写真だけだった。日帰りとはいえ一人で東京へ行くことに反対した両親から、場所を聞き出せなかったのである。代わりに、アルバムから写真を引きはがして飛び出してきたのらしい。
「そんなにしてまで見てみたい場所って、何があるんだ?」
「特に『これ』があるって訳じゃないんです」
 そう言って、ちえりは深津に件の写真を見せた。満開の桜をバックに、腕を絡めたカップルが笑顔を浮かべている。
「本当なら、春に来るべきなんでしょうけど」
「桜かぁ。今の時期は葉桜だもんな」
 難しいかも、という言葉を飲み込んだ深津は、ちえりをその場に残してインフォメーションセンターへ駆けて行く。すぐに戻ってきたその手にはパンフレットが握られていて、深津はそれをちえりに広げて見せた。
「春の花見の名所だから、桜が植わっている場所が記してあるんだ。これを見ながら探そう。これならすぐに見つかるかもしれない」

 楽観的に考えていた深津とちえりだったが、一時間あまりを消化した頃、捜索は困難の様相を呈してきた。
 木を探すなら森の中と、まず二人が目指したのは敷地南部の桜園地だった。その名の通り桜の木が多く植わっていて、パンフレットによると一五〇〇本以上も桜が集められている。それを一本ずつとは言わないが、小降りとはいえ雨天の中、アングルを確かめながら少しずつ調べていくのは並大抵のことではなかった。
 桜の木以外になにか特徴的な物が写っていればまだ楽だったのだろうが、背景の桜を生かし切った理想的とも言えるような写真に、余計な物はこれっぽっちも写っていない。
 ちえりのタイムリミットから逆算すると、捜索に使える時間は、あと一時間強である。だが、目的地は桜園地と限らない。桜の木は御苑全体に植えられている。目当ての場所が桜園地でないのならば、残りの時間で目的地を見つけ出すのは、かなり困難なことに思われた。
「ちょっと、甘かったかな」
 笑みを絶やさないちえりだったが、バス旅の疲れが覆い被さってきたのだろう。疲労の色が濃い呟きを、深津は聞き逃さなかった。
「ゴメン、俺の見通しが甘かったよ」
「いえ、私が甘かったんです。写真一枚で場所を探そうって事が間違っていたんですよ。こんな事に付き合わせてしまって、私の方こそごめんなさい」
 頭を下げるちえりに、深津は慌てて首を横に振る。
「俺はいいんだよ、勝手に付いて来ただけなんだから。それより疲れただろう? バスって思ったより消耗するんだよ」
「そうみたいですね。体力はあると思っていたんですけど」
「狭い座席に数時間も固まっていたら、誰だって疲れるよ。時間がもったいないから昼はいらないって言っていたけど、少し食べた方がいい。ちょっと休もう」
 頷いたちえりを伴って、深津は桜園地の北端にある休憩所へ向かった。サンドウィッチを買うついでに、売店の女性に写真を見せてみる。
「この場所を探しているんですけど、わかりますか?」
「さあ、ちょっとわからないわね」
 もう一人いた店員にも見せてみたが、わからないと首を横に振る。
「あのおじいさんなら知っているかも。よく写真を撮りに来ているのよ」
 店員が教えてくれたのは休憩所の隅でお茶を飲んでいる、雨合羽を着た老人だった。彼の目の前にはアルミケースがあり、その上に大仰なカメラが鎮座している。
 深津とちえりは店員にお礼を言うと、紹介された老人に声をかけた。写真を見せると、老人は大きく頷いた。
「ああ、ここか。知っているよ」
 色よい返事に輝いたちえりの顔は、次の言葉で瞬く間に曇ってしまった。
「でも、もう無いんだよ」
「無いって、どういう事です?」
「この後ろの桜だけどね」
 と、老人は写真の中でひときわ目立つ桜を指した。
「百年を超す樹齢の木だったんだけど、二十年ほど前の台風で折れてしまったんだ。それを機に散策路の整備工事が始まってしまって、雰囲気はがらりと変わってしまったんだよ」
 どうする?と深津は視線をちえりに送る。ちえりはそれを受け止めて、顔を上げた。
「よろしかったら、そこへ連れて行って貰えませんか?」
■ ■ ■
 案内されたのは桜園地からそう離れていない、『下の池』と呼ばれる池のほとりだった。池に浮かぶハスの葉の緑と、点在するハスの花の紅白の彩りが深津とちえりの目を引く。そして周囲を取り巻く、煙雨に濡れる柔らかに萌えるモミジ。その足下ではアジサイが色の華やかさを競い合っている。
 しかし、その中に桜の葉の濃緑色は見あたらなかった。
「枝垂れ桜なら、向こうに何本も植わっているんだが」
 老人は確かめるように周囲を見回し、池を背に一方を指す。
「写真はこの方向で撮ったんだね。そこに大桜があって、散策道へ覆い被さるように枝が伸びていたんだ。あれは圧巻だったねぇ」
 当時を思い出しているらしい細められた老人の視線の先と、手の中の写真をちえりは交互に見つめる。
 桜は無く、雰囲気もがらりと変わってしまっていては、ここがそうだという断定がちえりにできないようだった。件の大桜以外にも何本かの桜が植わっていたが、まだ小さかったこともあって工事を機に他所へ移されており、当時を偲ぶこともできない。
 立ちつくすばかりのちえりが落ち込んでいるのだろうと、勇気づけようとした深津が隣に並ぶ。写真に目を落としているちえりが、ぽつりと呟いた。
「自分で見つけろって事なのかも」
「何を?」
「答えを。ちょっと悩むことがあって、それを解決したくてここに来てみたんです。当時の両親が見たものを見たら、少しはわかるかなと思って」
 上げた顔に張り付いていたのは、諦めた笑みではない。これからの季節には似合うであろう、爽やかな表情だった。
 答えは見つからなかったが納得できる何かを得たのだろうと、深津は心中でほっと息を吐いた。
「お二人さん、こっちを向いて」
 声をかけられた方へ深津とちえりが顔を向けると、老人が構えたカメラをこちらに向けている。
「後ろのアジサイと一緒に撮らせてくれ」
「俺はいいけど、ちえりちゃんは……」
「深津さん」
 ちえりは、少し目を伏せる。
「写真のように、していいですか?」
 ちえりが持つ写真の恋人たちを思いだし、深津の顔の温度が急激に上がる。写真の彼らは、桜の中で仲良く腕を組んでいて──。
 女性との接触が全くなかった訳ではなかったが、女の子と腕を組むという行為に、深津は動揺を隠せなかったのだ。
 その様子に、ちえりは少し沈んだ表情を見せた。
「ダメ、ですか?」
「ダメだなんて、そんな! ちえりちゃんがよければ、いくらでも!」
「ありがとうございます」
 顔をほころばせたちえりは、自分の傘を畳んで深津の傘に入る。そして腕を絡めようとした、その時だった。
「待て待て待てぇ!」
「彼女から離れろ、このケダモノっ」
 周辺から男が数名、わらわらと駆け寄ってくる。その中の一人に深津は見覚えがあった。新宿駅でちえりを追っていた男だ。
 深津は相手を刺激しないよう、さりげなくちえりに尋ねる。
「一応確かめるけど。彼ら、知り合い?」
「違います」
 今度もちえりは、はっきりと答える。
 男たちは老人を人質にとるでもなく、ちえりを放せとわめき立てているだけであることから、悪事ごとに関してはまったくの素人だろうと深津は判断した。
 外警班員並みとは言わないものの、日頃の訓練で深津には腕に覚えがある。相手にできない人数でないとは思ったが、優先すべきは打ち倒すことではないと思考を切り替えた。
「逃げる?」
「はい」
 深津は手早く傘を畳むと、ちえりの手を取って走り出した。
「おじいさん、すみません。案内ありがとう!」
 追いかける男たちを引き離し、制止の声を振り切り、深津とちえりは御苑を駆けた。
 フランス式の庭園を抜け、芝生を横切る。見憶えのある遊歩道を辿って、御苑の外に飛び出す。
 男たちの声はもう聞こえなかったが、深津とちえりはスピードを緩めなかった。新宿駅ではなく新宿三丁目方面へ向かい、通りかかったタクシーに飛び込む。
 日頃の訓練のお陰か深津の息の乱れは軽微で済んだが、さすがにちえりはそうもいかなかった。膝を抱え込むように座席の上で丸くなっている背が、大きく上下している。
「大丈夫?」
 返る言葉は無かったが、ちえりは少し顔を上げて深津に頷き返す。
 ほどなく呼吸が整い始めるが、代わりに笑い声がちえりの唇から漏れ出した。それはだんだんと大きなものになってゆく。今度はその絶笑で、息が絶え絶えとなるほどだった。
「ちえりちゃん?」
「ごめんなさい。あまりにも可笑しくて。追っ手から逃げるだなんて、なんだかお芝居をやっているみたい」
 涙を流しながら笑い転げるちえりの朗らかな声は、しばらく止まりそうになかった。

 タクシーは歌舞伎町を経由して都庁の前を通り過ぎ、西新宿一丁目で深津とちえりを下ろした。つまり、新宿御苑から北上して西へ進み、そこから南下して東進するという、新宿駅を中心に反時計回りして、新宿駅に戻ってきたわけである。
 新宿に到着したバスを降りてすぐ男たちに取り囲まれたというちえりの証言を鑑みれば、新宿駅に近寄らない方がいい。しかし、ちえりが乗るバスが新宿駅からしか乗車できないという不可避の理由のため、戻らざるを得なかったのだ。
 待ち伏せを考えてバスの発車時刻ギリギリまで乗り場へ近寄らない事にした二人は、駅ビルの中で過ごすことにした。追っ手に囲まれるかもしれないので喫茶店などに入るわけにもいかず、ウインドウショッピングで時間を潰していた時だった。不意にちえりが足を止める。
「やけに小さいヒマワリだなと思ったんですけど、ガーベラの鉢でした」
 いぶかしむ深津に照れ隠しの笑みを向けたちえりが指さした先には、ちえりが言うように、一見すると小さなヒマワリに見える花の鉢が花屋の店先に並んでいた。そうだと言われたら信じ込むだろうと思えるほど、そのガーベラはヒマワリによく似ている。
「花は、好き?」
「ええ、好きです」
 その言葉を聞くやいなや、深津はガーベラの鉢を一つ持って店内に飛び込んだ。その深津を追って、慌ててちえりもそれに続く。
 レジに近づくことを躊躇したちえりが外を気にしつつ広くはない店内を見ていると、ほどなく深津が戻って来た。そしてラッピングされたガーベラの鉢をちえりに突き出す。
「東京土産にしてはあまり東京っぽくないけど、よかったらもらって。追いかけられてゆっくりできなかったし、桜は……アレだったしさ。在京の人間からしたら、いい思い出の一つでもつくって欲しいかな、とか思って。いやあの、無理に押しつける訳ではないんだけど……」
「ありがとうございます。本当に何から何までお世話になってしまって」
 しどろもどろになる深津の手からガーベラを受け取ったちえりは深く頭を下げ、そして一枚の紙片を深津に手渡した。
■ ■ ■
『こんばんは、ちえりです。今週から夏休みに入りました。部活の練習が忙しくて毎日ヘトヘトです。休めるのは日曜ぐらいで、これなら普通に学校へ行っている方が楽かもしれません。そうそう、八月に東京へ行けることになりました。今回、両親の許可はちゃんともらいましたよ。もし深津さんにお時間があったら、東京見物にお付き合いしてほしいのですが……』
 別れ際のちえりのお願いとは、メールアドレスを交換することだった。別れてから一ヶ月弱が過ぎているが、やり取りしたメールはすでに二十を越える数となっている。
『こんばんは、深津です。最近部活が忙しいって言っていたけど、疲れてない? 疲れているなら返信はいらないからね。昨日、新宿御苑のおじいさんに会えたよ。急に逃げたことに怒るどころか、逆に心配をかけちゃっていた。悪いコトしたよね。八月だけど、何があっても絶対休みを取るから、必ずお供するよ。詳しい日程が決まったら……』
 時間をかけて推敲した文章で返信をして、深津はメーラーを閉じる。代わりにブラウザを立ち上げた。
 深津は言わずとしれたアイドルマニアである。贔屓のアイドルや、新人を発掘するための情報を交換する場であるサイトに顔を出すのが、ちえりとのメール交換よりも前から続けている深津の日課だった。
 足繁く通うサイトの一つへアクセスし、複数ある掲示板を一つずつ、時には返信の書き込みをしながら目を通していく。
 新人アイドルの情報交換掲示板のとある書き込みに、深津の目が止まった。

タイトル…桜の季節はこれからだ!
投稿者…薄皮まんじゅ
内容…皆さんこん○○は。郡山在住の薄皮まんじゅです。
郡山には知る人ぞ知る劇団女優が居まして、今度「蟷螂の斧」で有名な津川兼成監督の新作に出るという噂が飛び交っています。
六月には日帰りですが、上京したという情報を掴んでいて(在京の同志からの目撃談あり)、これは津川監督との打合せではないかと睨んでいます。
これを機に芸能界入りも考えられるため、関東在住の皆様のお力をお借りして、さらなる情報収集をしたいのです。
今月の劇団公演ではラブストーリーで初主役を演じ、見事に演じきりました。女優としての実力は花丸付きです。
現役女子高生である彼女の名前は『木花ちえり』ちゃん。僕ら郡山サポーターは『桜ちゃん』と呼んでいます。彼女が好きな花が桜だということ、名前が「こはなちぇりー」→「このはなさくら」→「このはなさくや」と桜に縁が深い此花咲耶姫に通じることが由来です。
写りは悪いですが、公演中の画像を貼っておきます。ぜひぜひ、情報提供をよろしくお願いします。

 そんな書き込みとともにアップロードされた画像に写っているのは、紛れもなく深津が知るちえりのものだった。
 部活が忙しいとは言っていたが、これはもしかして、劇団の事ではないのか。
 新宿でちえりを追い回していたのは、ちえりのファンだったのではないか。
 来月に上京するのは、もしかしたら津川監督との打合せがあるからではないのか──。
 知人が有名人であること、そして有名人とプライベートな友人であることに優越感を感じ、にんまりと笑った深津だったが──ふと、あることに気がついた。
 ちえりには、ファンに気をつけるように言うべきだろう。上京時も正体を隠す必要が出てくるかもしれない。
 そうなると、その情報をどうやって手に入れたか、ひいては深津がアイドルマニアであることを白状しなければならなくなるだろう。
 下心あってちえりを手助けしたわけでも、取り入るためにガーベラをプレゼントしたわけでも無いのだが……誤解される可能性は果てしなく高い。
「俺、どうすりゃいいんだよ」
 部屋で一人、深津は悶絶の叫び声をあげて頭を抱え込んだのだった。
― 了 ―

あとがき
 2006年6月11日に大阪で行われたGDオンリーイベントで企画された、オンリー本に寄稿した作品の再録となります。
好きに書いて良いということなので、オイシイ設定であるにもかかわらず、本編ではなかなか使ってもらえない深津にスポットライトを当ててみました。
相手役を隊員にできなかったのが、技量不足ですね(^^;
 
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