ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

アレ城

おつかい

 雑踏を切り抜けても、アレクは皇親の手を離さなかった。
 国内最大の電気街を庭としているアレクにとって、たった二つ隣の駅に併設するデパート地階というのは、未知の世界だと言っても過言ではない。
 さらに小腹が空いてきた午後五時頃となれば、未知の世界は誘惑の世界へと様変わりする。
 和洋折衷、様々な総菜から送られる秋波に惑わされっぱなしだった。これではラチがあかないと一言言ったが最後、アレクは皇親の手を握って離さなくなったのだ。
「もう、手を離してください」
「ヤダ」
「ヤダじゃなくて」
「だってお城ちゃん、俺置いて行くって言ったもん」
「そんなこと言っていません。アレクさんがいつまでも動かないから、俺が用事済ませるまでここにいてくださいと、言っただけです」
「ほら、やっぱり置いて行くって言った」
「だから……」
 言いかけた言葉を、皇親は飲み込む。勝ち目がないことはわかっているからだ。
 昨晩も、なんだかんだと言いながらベッドに引きずり込まれた。体力も口も技も、アレクに敵わないのだ。
 観念した皇親は手をつないだまま、地階の一隅に新設された目的地を目指すことにした。

 そこは創業二百数十年という、京都に本店がある由緒正しき和菓子店である。初めて府外に店舗を持ったということでクロウは以前より開店を心待ちにしていたのだが、急な出張で開店初日に来ることができなくなってしまった。そして今日が帰国予定日だが寮に着くのは真夜中だということで待ちきれず、オフだったアレクにおつかいを頼んだのだ。
 それなのに買い物の主導権は、いつの間にか皇親が握っていた。
 店についても手を離してくれないアレクは、店内をゆっくり見て回ろうとする。だのに手を離せと言えば嫌だと言う。仕方なしに皇親がアレクを引きずり、カウンターの店員に声をかけたのは店に入って半時間も過ぎた頃だった。
「白梅と青山吹と柳……あと、なんでしたっけ」
 きょろきょろと目移りさせていたアレクは、そこでやっとメモを取り出す。
「若緑だよ」
「そう、若緑。二つずつでお願いします」
「かしこまりました」
 一礼した店員は指定された菓子を黒塗りの盆に乗せ、皇親に見せる。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「はい」
「おつかいものでございますか?」
「うん、そ……」
 それぐらいはおつかいを受けた責任を……と、アレクが口を出そうとしたのを、手を引いて皇親が止める。そして素知らぬフリで皇親が店員に答えた。
「いいえ、内使いでお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 盆を下げる店員を見送ったアレクは、財布を取り出そうとカバンを探る皇親の顔を覗き込む。
「城ちゃん」
「なんですか」
「俺たち、クロさんのおつかいだよね?」
「そうですよ」
「だったら、おつかい、でしょ?」
 その言葉に、皇親はゆっくりと口の端を持ち上げる。
「支払いしますから、手、離してください」
「あ、うん」
 普段なら、もったいぶって話をはぐらかすなんてことを皇親はしない。それをされたことに首を傾げながら、皇親に促されたアレクは店員が持ってきた紙袋を受け取る。
 財布をカバンにしまうと同時に手を伸ばすと、皇親がするりと逃げた。
「城ちゃん?」
「おつかいものの意味がわかるまで、俺に触るの禁止です」
「ええっ、なんで? どういうこと?」
「日本語は難しい、ということですよ」
 言って、皇親はふわりと微笑んだ。
― 了 ―

あとがき
 やっとこさ、アレ城の二作目です。ちょっとつまったので時間かかるかなと思ってたんですが、意外に早く仕上がりました。
 おつかいものと内使いですが、私がこの言葉を知ったのは数ヶ月前です。で、知ったすぐあとに実践で使うことがあったのでネタにしてみました。
 おつかいものですかと訊かれて「いいえ、内使いです」と言い切れたときは、ものすごく気持ちよかったですよ。場所は和菓子屋じゃなくて佃煮屋でしたけどね(笑)
 
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