ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

その他

わがまま

「何故、逃げる?」
 いたたまれなくなって逃げ込んだ医務室は、私を守ってはくれなかった。
 必死にノブを握りしめてカギをかけようとしたのに、サムターンは震える指先からするりと逃げる。そのせいで、ドアは抵抗もなく侵入者を迎え入れたのだ。
 その侵入者はあっさりとドアのカギをかけてしまうと、部屋の隅に逃げようとした私を抱きしめる。
「俺から逃げる必要はないだろう、紫乃?」
 西脇さんは躯に染み入る低い声で、そう囁いた。

 いつものように館内を巡回しているときだ。通用口付近の人だかりに気がついた。
 最初にみつけたのは、こちらに背を向けている西脇さんだ。一緒にいる宇崎や真矢たちと、なにやら楽しそうに雑談している。
 そんな集団の中心に、髪が短くなった内藤さんがいた。どうやらその髪のことで盛り上がっているらしく、西脇さんはからかっているような雰囲気で内藤さんの髪をぐちゃぐちゃにかき回している。
 その姿に、大きく心臓が跳ねた。
(やっぱり、駄目だ)
 頭ではわかっているのに、心が追いつかない。
 内藤さんは、ただの親友。私と出会う前からの付き合いがあるだけだ。
 そんなことは重々わかっているのに、思わぬショックで指先から体温が抜けていく。
(嫌な人間だ)
 私は、内藤さんに嫉妬している。
 西脇さんが甘えるような、安心感を匂わせる笑顔を見せるのは内藤さんだけ。私に見せるのは、隊長にも見せる保護者のような笑み──。
(──駄目だ。思考が悪循環している)
 私が恐れていることは、一片たりとも存在しない。ただ単に、私が幸せであるから抱いてしまう妄想だ。
 西脇さんに捨てられることへの恐怖。それを和らげようとする無意識の身構え。
 これが、私を蝕む妄想の正体だ。
(ここを離れよう。それがいい)
 ちらりと横目で見て立ち去ろうとしたとき、耳に飛び込んできた宇崎の言葉に足がすくむ。
「へえ、器用だなぁ。内藤さんの髪を切ったのって西脇なんだ」
 後頭部を鈍器で殴られた──そう思うほどの衝撃が、私を打ちのめす。
 突然襲われためまいに倒れそうになるが、必死に壁へ取りすがった。
 ──何故。
(何故、関わるんですか)
 私の知らないところで……。
 西脇さんが内藤さんと会っていたなんて、私は知らない。聞かされていない。
 何故、隠すんですか、西脇さん……っ!
「おい真矢、お前も切ってもらえよ。そんなに長いと、うっとうしいんだよ」
「どうして? うささん、この間、喜んでいたじゃな……」
「ばっ……! なんでお前の髪で俺が喜ぶんだよっ。じゃあ、俺が切るっ。西脇、今度俺の髪……」
「もう、うささん何いっているの。自分で何言っているか、理解している?」
「理解している! お前は黙っていろ!」
「そんなこと言ったって、切る髪ないでしょ。この間切ったばっかりなんだから」
「いいんだよ!」
 だんだんとヒートアップしてあたりに響き渡る宇崎の声が聞こえないほどに、私はショックを受けていた。
 私にできるのは、速やかに、それも知られずに立ち去ることしかない。
 細心の注意を払って、その場を離れる。それは成功したのだが、角を曲がればすぐに医務室というところで、密やかな離脱に失敗したことを知った。
「ドクター、ちょっと待って」
 振り返らずとも、呼び止めたのが誰なのかわかる。際立った特徴があるわけではないが、いつも囁かれる低い声を忘れるはずがない。
 慌てて医務室に駆け込んだのだが私は逃げることに失敗し、逆に閉じこめられてしまったのだった。

「俺から逃げる必要はないだろう、紫乃?」
 私を後ろから羽交い締めするように抱きしめたまま、西脇さんは答えを待っていた。
 責められたわけではない。問いつめられたわけでもないのに、あふれる涙を押しとどめることができなかった。
「わ、私は……わがままなんです。だから、放っておいてください」
 絞り出した答えに、西脇さんは身じろぎしなかった。
「わがままって、何? 教えて」
「なんでもありませんっ」
 口をつぐむと西脇さんは私の肩を抱いて、無理矢理向き合わせる。
「ごめん、紫乃。泣かせてしまって」
「な……泣いてなんかいませんっ」
「怒らせてごめん」
「怒ってませんっ」
「迷惑かけてごめん」
「め、迷惑なんか、被ってませんっ」
「わがままにさせて、ごめん」
「わがままなん……」
 言葉を継げなくなって、俯く。
「わ……わがままです、ね。私」
「そう。だから教えて。紫乃のわがままって、どんなわがままなの?」
「言いたくありません」
「どうして?」
「わがままですから」
「──参ったな」
 ほころぶように笑みを浮かべた西脇さんは、有無を言わせず私を抱き上げた。
「なっ……下ろしてください!」
「駄目。今から沢山、わがまま言ってもらうから」
「じゃあ、わがまま言います。下ろしてください!」
「だからといって、俺は紫乃のわがままを大人しく聞くなんて言わない」
「っ!」
 隔離用のカーテンを引くと、西脇さんは私と共にベッドへ沈んだ。

 結局、私は最初のわがままの内容を言ってしまったらしい。
 らしい、というのは、私が憶えていないからだ。しかし、西脇さんの言葉の端々をつなげると、私は包み隠さず心の澱を告げてしまったようだった。
「ごめん、紫乃」
 私に着せたシャツのボタンをはめながら、西脇さんはそう言った。
「何故、謝るんです?」
「紫乃を不安にさせたから」
「それは、私が勝手に……」
「でも、その原因は俺だろう? もう、そんな思いはさせないから」
「させないって……まさか、内藤さんと付き合いをやめるなんてことはないでしょうね? 私は嫌です、そんなこと」
 二人の仲に嫉妬はした。だからといって、二人の良い関係を崩すつもりはない。もしそんなことをするなら、こちらが関係を切るつもりだった。
「じゃあ、紫乃をもっと、俺に夢中にさせる」
「もっとだなんて、私は……」
「何も考えられないくらいだよ。俺が正義で全てだって思えるくらい、俺を愛してもらうから。いいよな?」
 まっすぐに見つめられて、冷めかけた頬がさっと熱くなる。思わず私は「はい」と小さく頷いた。
 しかし、「でも」とも続ける。
「勤務時間にこんなことする西脇さんを正義とは認めません。絶対に」
「それでこそ」
 相好を崩した西脇さんは、軽く睨んだ私の頬に口付けた。
― 了 ―

あとがき
 掲示板の書き込みにピリッと来て、急遽書いちゃいました(^^; 最初のプロットとは微妙に違ってしまいましたが、これはこれで満足です。
 
(追記)
 しかしまぁ……『kiss』とあわせて読むと、西やんってば二股かける悪いヤツにみえますねぇ(笑)
 書いた当初は、パラレル扱いでしたけど、最近は二股ネタでもいいかなぁなんて思い始めてます(爆)
 
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