ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

西やんと内藤さん

kiss

3.はさみ(西脇ver.)
「バイク、好きなんですか?」
 警備隊の班長会にて定例報告を終えた内藤さんを見送りに出た時だ。梅沢が引いてきた内藤さんのバイクを一目見て出た一言が、これだった。
「好きじゃなきゃ乗らねーよ」
「じゃあ、これは何なんです?」
 人差し指をぴんと立て、フューエルタンクの表面を真一文字に引く。その軌跡はバイク本来の色をあらわにし、代わりに俺の指が砂埃で真っ白になる。
 それを目の前に突き出してやると、内藤さんはすねてそっぽを向いた。
「お前は俺の姑か」
「違いますけどね。いいモノに乗っているんですから、大事にしたらどうです?」
「いいんだよ。動きさえすれば。それに買いに行く時間がない」
「じゃあ、俺が届けてあげますよ」
「しなくていい。休みの日ぐらい寝ておけ」
 そう言い捨てて内藤さんが帰っていったのは、三日前のこと。
 あの人の許可なんか待っていたら、いつまでも何もできない。だから許可を得ることなく適当に見繕ったバイクカバーを携えて、危機管理局テロ対策日本支部へと足を向けた。

 アポイントも何も無い状態なのだから受付を通そうと、そちらへまっすぐ向かおうとしたときだ。台車を押す氏木さんに声をかけられた。
「部長にご用ですか?」
「ええ。私用なんですが、ちょっと届け物を。いますか?」
「一応は」
「あの人のお世話、大変ですね」
 苦笑で応えた氏木さんは「そうだ」と顔を上げた。
「このあと、何かご用がありますか? よろしかったら、ちょっとお願いしてもよろしいです?」
「何でしょう?」
「僕が戻るまで、フラッと出て行かないように部長を見張っていてもらいたいんです。どうしても出かけることになった場合は、携帯を必ず持たせてもらえると嬉しいんですが」
 氏木さんの申し出に、俺は満面の笑みで首を縦に振った。こんな美味しい申し出、断る理由なんてない。第三者のお墨付きで内藤さんの側に居られるのならもうけものだ。
「構いませんよ」
「ありがとうございます。一時間ぐらいで戻ると思いますから、その間よろしくお願いします」
 氏木さんはもう一つ頼み事を俺に引き受けさせると、受付で外来者用の名札を取ってきてくれる。そして何度も頭を下げながら、台車を押して行ってしまった。
「苦労させられてるなぁ」
 氏木さんの小さな背中を見送ると、教えてもらった部屋へ向かう。三階の一番奥の部屋が、目的の場所だ。
 軽くノックをして、返事も待たずに引き開ける。
「なんだ、早かったな」
「俺、約束していましたっけ?」
 とぼけた調子で答えると、背を向けたままだった内藤さんは慌てて振り返った。
「悪い、氏木と間違えた」
「先ほど会いました。お気の毒に、いいように使われて」
「いいんだよ。それがあいつの仕事だ」
「そのしわ寄せが俺に来ているんですけど?」
 大げさにため息を吐いてみせると、内藤さんは眉根を寄せた。
「なんだ、しわ寄せって」
「氏木さんが戻るまで、どこにも行かないように見張るようお願いされました」
「アイツ……」
「ついでに、髪を切るよう説得してくれとも」
 内藤さんは眉間のしわをさらに深める。
「そんなことまで……」
「俺も氏木さんと同意見ですよ。内藤さん、髪伸びすぎ」
 近寄って、頭頂部の一房をつまみ上げる。やはり、結構な長さになっている。
 正しい指摘が鬱陶しいらしく、内藤さんは俺の手を払うとパソコンに向き直った。
「確か、入院したときに切ったきりですよね?」
「多分な」
「知っています? 男性で髪がすぐに伸びる人はスケベらしいですよ」
「アホか。お前がそんな非科学的なことを信じているとは思わなかったぞ」
「信じているワケじゃないですよ。雑談ネタに知っているだけです。ということで、髪を切りませんか?」
「なぁにが、ということで、だ。俺は忙しいんだから、大人しくその辺に座っていろ」
「客を放っておくんですか? 薄情だなぁ」
「うるさい。適当にコーヒーでも飲んでいろ」
「飲み物もセルフで? そんなこと言わずに構ってくださいよ」
「ああ、もう、うるさいなぁ。手持ちぶさたなら、これで髪を切ってくれ」
 内藤さんは引き出しから取り出した荷造り用の大きなカッターを俺に手渡し、勝ち誇ったような笑みを見せた。無理難題をふっかけて、相手の主張を突っぱねるつもりらしい。
 黙り込んだ俺を見て、内藤さんは唇の端を引き上げて作業を再開する。
 仕方ない。希望に添ってあげましょうか。髪を切り始めたら、嫌でもこの部屋から出るわけにはいかなくなる。氏木さんの頼みを同時に二つ、叶えることにもなるし。
 俺は持ってきたバイクカバーを取り出すと、その辺に転がっていたハサミで真ん中に穴を開ける。開けた穴から頭が出るように、それを内藤さんにかぶせた。
 突然かぶせられた銀色のビニールに、内藤さんは目を白黒させる。
「何だ、これは」
「ケープの代わりです」
「──これ、バイクカバーじゃないのか?」
「そうですよ」
 切った髪の毛が入り込まないように、首まわりのシートを寄せてセロテープで貼り付ける。これではまるで、銀色のてるてる坊主だ。
「穴、開けたのか?」
「当然」
「もったいねぇ……」
「どうぞ、仕事を続けてください。邪魔はしませんから」
 ハサミを手に取ると、大きく肩を落としていた内藤さんは慌てて俺を振り返る。
「──お前が切るのか?」
「切って欲しいんでしょう?」
「そりゃあ、そうだが……」
「俺がやるんですから、高いですからね」
 手櫛で髪を梳いて、適当な量の髪を左手の人差し指と中指で挟む。その指からはみ出した分の毛先を、問答無用でざくざくと刈っていくと、慌てた調子で口を挟まれた。
「おいおいおい、大丈夫なのか?」
「自分でカッターを差し出していた人がなにを言っているんです?」
「まあ、それはそうだが……」
 内藤さんは、口ごもりながら唇をとがらせる。その姿が愛くるしくて、言おうと思っていた意地悪を飲み込んだ。
「心配しなくても大丈夫ですって、できる限りまともに切りますから。その代わり、切りすぎが気になるなら動かないでくださいよ」
 どうやら、忠告を大人しく聞き入れるつもりらしい。パソコンをいじるのは禁止したつもりではなかったが、内藤さんは自主的にキーボードから指を離して、椅子に深く腰掛けなおした。
「切ったことあるのか?」
「いいえ。一度やりたいと思っていたんですよ。まさかこんなところで体験するとは思わなかったですけれど」
「にしては、慣れた手つきだな」
「見よう見まねです。自分が切られるときに、鏡で見ていましたから」
 道具がハサミだけというのは少々苦しかったが、数十分もすれば何とかさまになる短さに整えることができた。細かい髪を払い、ケープを取り外す。
 ロッカーに鏡があるというので、備え付けのものをはずして内藤さんに手渡す。その鏡をのぞき込んで「ふむ」とうなった。
「──短いな」
「今までが長すぎたんです」
「そうか……まあ、いいか。そのうち伸びる」
「長い方がいいんですか?」
「そういうワケじゃないんだがな」
 内藤さんは顔の角度を変えながら、短くなった髪を吟味する。そんなにこだわるなら、普段から気にしていればいいのに。
 充分に自分の顔を眺めてから、内藤さんは大きく頷いた。
「ナントカとはさみは使いようってか」
「何か含んでいません? その言い方」
「気にするな。お前の気のせいだ」
「ホントかなぁ」
「疑うなよ」
「じゃあ、そういうことにしておきます。はさみは使いようだってことは、俺も同意ですから」
 内藤さんの背後に立ったままの俺は、まだ鏡を見ている人の両頬を両手で挟み込んで仰向かせる。
「にしわ……」
「黙って。目をつむって」
 内藤さんが言うとおりにするのを見届けないままに、唇を重ねる。
 予想していた抵抗は皆無だった。
 下唇を甘く噛むと、手のひらの下で頬に緊張が走る。そして、じんわりと上昇する熱を感じた。
 薄く目を開けると、僅かにのどが震えているのが見える。もう一度まぶたを閉じて舌を唇の間に割り込ませると、あらがわれることなく侵入を果たせた。
 無抵抗をいいことに、舌根まで絡め取る。体の奥に印を付けるつもりで、貪欲に食い荒らした。
 貪るだけ貪って……しかし、満足することなく、俺は唇を離す。
 見下ろした先には、満面朱をそそぎながらも平静を装おうとする内藤さんの顔があった。
「ほら、はさみ一つでいいものもらった」
「──安いな」
「自分のこと、安く見積もりすぎですよ」
「そりゃ、お前の感覚がおかしいんだ」
 憮然と言い放つ内藤さんの額に、軽くキスを贈る。反応をうかがうと、小指の先に触れていた内藤さんののど仏が、こくりと上下しただけだった。
 つまり、できるだけ無反応で対応し、俺が飽きるのを待つ方針にしたらしい。
「可愛い人だ」
 その一言で、内藤さんの考えが俺の知る所となったことを理解したようだ。不満そうに片方の眉尻を跳ね上げる。
「俺のことが嫌いなら、抵抗してください。俺ニブいから、態度で示してもらわないとわからないです」
 そして今度は、恐る恐る額に口付ける。
「──内藤さん?」
 抵抗は、無かった。
「俺、自惚れますよ?」
 そう言っても、内藤さんは無言で口をつぐんでいる。
「俺のこと、嫌いじゃないってことですよね?」
 応えは、耳の縁まで染まった内藤さんの顔色で充分だった。
― 了 ―

あとがき
 三作目となりました今作は、『kiss』を書く切っ掛けになった話となります。2004/11/28のGDオンリーの帰りに、最初の構想を練りました。
 当初、プロットの表向きは西内でした。しかし、私としては内西であり、かつ西やんが「誘い受け」という日本語が似合う男と認識されていまして(笑)
 どうしても最初のままだと納得がいかないため、『kiss』はバージョン違いの二本立てで行くことになりました。
 次回、いよいよ最終話となります。
(2004/12/26)
 
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