ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

西やんと内藤さん

kiss

2.Vulgar(西脇ver.)
 業者のトラックのチェックを行っていた時だ。通用門に近づいてくる、聞き慣れないエンジン音に気が付いた。
 トラックの影から様子をうかがう。
 バイクから降り立ったのは、珍しくこざっぱりした内藤さんだった。暖かくなったとはいえバイクに乗る時はまだ手放せないらしく、黒のライダージャケットを羽織っている。
 先日の事故で愛車をツブしたそうだ。見慣れないバイクは、次の愛車ということらしい。
 そのバイクを走り寄ってきた梅沢に引き渡したところで、内藤さんは近づく俺に気が付いた。
「どこかの帰りですか?」
「委員会だ。何故わかる?」
「おめかししてるから」
「おめかしって……単にスーツ着てるだけじゃないか」
「髪も整えていますよ。メットで崩れていますけど。普段の鳥の巣よりはマシです」
 言って、少し乱れた髪を手櫛で整えてやる。内藤さんは面倒くさそうに顔をしかめていたが、嫌がりはしなかった。
「いつもはそんなにひどいのか」
「ええ、もうとんでもなく。今の内藤さんは、馬子にも衣装が服着て歩いているようなものですから」
「酷い言われようだな」
「だって、悪趣味だなんて口が裂けても言えませんから。自分で選んだんでしょ?」
 俺は内藤さんの胸元を指さした。少しだけ開いた襟元からネクタイが見えている。
 そのネクタイはお世辞にも趣味がいいとは言いがたいものだが、悪趣味と言い切るほど悪いものでもなかった。
「急に委員会に呼び出されたんだよ。出がけに汚しちまってな。コンビニで買ったんだ」
「なるほど。悪趣味になるはずだ」
「ほっと……」
 視界の端で何かが転がった。重い物が落ちたような鈍い音が耳を打つ。
 見定めるよりも先に、ソレから遠ざけようと内藤さんをトラックの方へと押しやった。同時にソレ──長さが三十センチほどの、カプセル状の金属塊──から真っ白なガスが噴出する。
「内藤さん!」
 にわかに周囲が騒がしくなる。近くにいた隊員たちが門外へと走り出していく。
 カプセルに近づこうとする内藤さんを抑えながら、インカムで隊長を呼び出した。
『処理班を向かわせる。できるだけ離れろ』
「了解」
 ふと、トラックの方に目が行った。トラックの運転手が、慌てて逃げていく後ろ姿が目に入る。
「あの男……」
 それはもう、カンでしかなかった。
 はずれて欲しいと願いながら、内藤さんを抱きしめる。
「みんな、トラックから離れ……っ!」
 轟音が耳を打つ。そしてそれに続く爆風が、俺たちを地面に叩きつけた。
「ぐっ」
 受け身を取り損なって、体の左半分を地面に打ち付ける。半秒遅れて、右脇腹に鈍い痛みが走った。
「くっ……」
 痛む体を無視して、腕の中の人を見やる。
「内藤、さん……?」
 ぐったりと横たわる内藤さんの額がぱっくりと切れ、血が流れ出していた。
「内藤さん!」
 傷つけたこと……守りきれなかったことに、唇を噛む。
「内藤さんっ!」
 俺の脇腹から溢れた血液が、内藤さんの服にゆっくりとシミをつくり始めた。

 ずっと、手を握っていた。
 俺の両手に巻かれた包帯の所為で、しっかりと握りしめることができないのがもどかしい。
 死人のように眠る内藤さんの手から、熱を感じることができない。生命の危険はないとわかってはいるが、ぬくもりを感じられないだけで、こんなに不安になったことは無かった。
 体温を感じたいがために、何度、包帯をむしり取ってしまおうと思っただろう。だが同じ回数だけ、俺は思いとどまっている。
 内藤さんが目覚めたとき、手の甲の傷を見せたくなかった。ただその思いだけが、俺を抑止している。
 本当は、この人を好きなだけ貪りたかった。血を、生気を、そして体温を与えるために。
 だが、今必要なのは俺じゃない。
 必要なのは、泥のように眠る時間なのだ。
 この人は弱くない。俺が守らなくてもいいほどに。
 でも、俺は守りたい。全てから──俺の強欲からも。
 絶対値は同じなのに、逆方向のベクトルが、俺の中で出口を求め暴れ回る。
 どうしようもないほど手に負えない、想い。
 それを押さえつけるために、こんこんと眠る人の指先に口付けた。
「内藤さん」
 俺は、どうしたらいいんですか?

 ぎしり、とベッドが軋む。
 突然、眠り人は体を起こした。
「ここは……つうっ」
 自分で体を抱きしめるように、背中を丸める。
「大丈夫です?」
「一応……な。ちょっとびっくりしただけだ」
 内藤さんは何度か深呼吸を繰り返してから、体を起こす。ほの暗い室内を見回して「医務室か」と呟いた。
 今のところは本当に大丈夫らしい。包帯が巻かれた額に手をやり、痛覚を頼りに傷の位置を確かめている。
「額の切り傷の他に、かすり傷と打ち身が何カ所か。頭も打っていたのでCTで調べてもらいました。今のところ異常は無いそうです。ただ、今夜は泊まって行けとセンセイが。氏木さんには連絡済みです」
「──そうか、テロか」
 そこでやっと、自分がテロに巻き込まれたのだと思い出したらしい。内藤さんはぱちぱちと目をしばたたかせた。
「退院したばかりだというのに……申し訳ありません」
「俺はどうでもいい。西脇、お前は大丈夫なのか?」
「大丈夫です。普段鍛えていますから」
 左半身の打撲、左頬と両手の甲の擦過傷。そして比較的浅かった右脇腹の傷が全治二週間。
 安静にと言われてはいるが、入院を余儀なくされた負傷者よりは軽傷だ。これを正直に申告するつもりはない。
「俺よりも制服の方が重傷です。新調したばかりなのに、一式がパアなんですから」
「それは気の毒なこった。でもな、俺を庇うからそんなことになるんだ」
「?」
「お前は……いや、お前たちは議員と議事堂を守ることが使命だ。なのに俺に気を取られてどうする」
「内藤さんだって、守るべき人です」
「何を言っているんだ。俺がいなくても危機管(危機管理局)は動く。DGとのパイプ役は誰でもできるんだ」
「議員の代わりだっていくらでもいますよ」
 その言葉で明らかに不愉快そうに、内藤さんは方眉をそびやかした。
「お前……」
「一つ訂正しておきます。内藤さんの代わりは一人としていませんよ」
 内藤さんの両頬を両手ではさみ、口づけた。
「こういう事をしたいと思うのは、内藤将征、ただ一人です」
 もう一度口づけようとすると、内藤さんは俺の顔を両手で突っぱねた。
「お前なっ。言う相手が違うだろうが!」
「違いませんよ」
 薄暗がりでもわかるほどに真っ赤にさせて俯かせた顔を仰向かせ、もう一度唇を重ねる。
 次に包帯の上から額に口づけようとすると、離れたのをこれ幸いと、内藤さんはブランケットを頭からかぶる。
「西脇!」
「はい?」
「お前の方が悪趣味だ!」
「──はいはい」
「いいか! お前の方が悪趣味なんだからな!」
「わかりましたから。静かにしてください」
 照れを必死に隠そうと怒鳴り散らすその様子が、あいらしくて、いとおしくて。自然と湧き上がる笑みを必死に抑える。
 代わりに、照れと戸惑いで自分をもてあましている怒りのような雰囲気が伝わってきていた。
 俺はそれが嬉しくて、思わず相好を崩す。
「明日、八時に迎えに来ます。それまで大人しく寝ていてくださいね」
 内藤さんからの返事はない。そのまま医務室を出ると、ぴたりと横に並んだ者がいた。
「西脇さん困りますよ。勝手に動き回られたら僕、センセイに怒られちゃいます」
 梅沢だった。数日は絶対安静を言い渡された俺が、勝手に出歩かないようにとつけられた見張りだ。
 内藤さんの側に居たいがために、隙を見て出てきてしまったのだ。
「悪い悪い。もう戻るよ」
「本当ですね? 大人しく部屋に帰りますよね?」
「ああ、本当だ」
「本当にもう、困るんですからね」
「で、昼間のテロリストについて、何か……」
「言いません!」
 長大息をしかけていた梅沢は、自分の両手で口を塞いだ。
「隊長に止められているんです。絶対に言いません!」
 俺は笑いを堪えながら、『言わざる』を実践しようとする梅沢の肩を叩く。
「悪かった。大人しく部屋に戻るよ。隊長にもそう伝えてくれ」
 そうして俺は本当に、自室へと戻ったのだった。
― 了 ―

あとがき
 内藤さん、また病院送りですか? 今度は西やんまで怪我させているし。いちおう、二人に対する愛情はあるんですよ。本当は胸が痛いんですが……って、言い訳はそらぞらしいです?(^^;
 今作は四作品中二番目に思いついた内容で、『リンゴ』の半月後ぐらいです。『kiss』は時系列で書いていく予定なので、次回作は今作から少し経った時期の話となります。
(2004/12/18)
 
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