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その他

認められたい理由(ワケ)

1
 二十一世紀を迎えたばかりの東京は、一極集中型の政府都市とは思えないほど平穏な街であった。世界の国々からは「奇跡の街」と賞賛を受けたほどである。
 東京が、日本国内だけでなく世界的に見ても重要な位置を占めるようになるとともに、暴力により主張を通す人々──テロリスト──が暗躍するようになる。
 彼らが狙うのは、不満がある企業や思想家だけではない。『日本』という船の舵をとる政治家、そしてその政治家が集まり論争を繰り広げる場となる国会議事堂も、テロの対象となっていた。
 その議事堂と政治家を守るため、『国会警備隊』は新しいシステムの導入を余儀なくされた。

 警備隊の黎明期は、惨憺(さんたん)たるものだった。
 次々と繰り出される暴力は隊員の意志をいくつも挫き、何人もの命を奪っていく……。
 しかし、絶望の底に叩き落とされようとも、不屈の精神で起きあがる人物がいた。
 それが、警備隊の隊長である。
 疲れ切った者はその腕に引き起こされ、奮い立つ。
 気高い背中を見た者は、絶望という二文字を払拭される。
 士気が上がり隊の運営が軌道に乗り始めるまでに、時間はそうかからなかった。
 そんな絶対に負けを認めない隊長という存在を、テロリストたちは良しとしなかった。
 程なくテロの対象に警備隊の隊長も加わり……手にかけられた。
 しかし、次代の隊長も不屈の闘志を見せた。その次も、またその次も。隊長という名称が教官に変化しても。
 そうして、2021年。
 歴代の指導者の中で随一の在勤の歴を持つ、八代目教官・石川悠。
 警備隊の指導者としては初めての、補佐を兼ねたSPが彼のために就くことになった。
 これは、そのSPが着任から少し時間が経った頃の話である。
■ ■ ■
「よし、朝礼はこれにて終了。各自持ち場へ戻れ。新人はその場で待機。指導担当者に従うように」
 国会警備隊の長、八代目教官である石川の声はよく通るものであったが、数メートルしか離れていない位置にいた本木惣伍の耳には届いていなかった。石川の発言の後半は朝礼ホールの上座に並んだ本木たちを振り返って発したものであったが、それどころではなかっのである。
 本木が知覚していたのは石川の声でも己の体を支配する緊張感でもない。警備隊員として活躍する近い将来の己の姿であり、それに対する賞賛の言葉の数々なのだ。
 つまるところ、妄想にふけって何も聞いてはいなかった、ということになる。
 本木は夢想家ではない。しかし、厳しい訓練を必死でこなして希望者の半分をふるい落とす最終試験に合格し、なんとか希望通りに国会警備隊へ配属された本木にとって、入隊できた喜びはひとしおなのである。そんな本木を責めることができる人物は教官の石川と、
「おい、本木」
「いっつ……」
 軽いゲンコツで本木を現実に引き戻した、外警班班長の西脇ぐらいだろう。
「教官の言葉は聞いていたのか」
「あ、はい、西脇さん……」
 歯切れの悪い本木の返事に、西脇はいじわるにも意外そうな表情を見せた。
「ほぉ。おまえにしては上出来だな」
「──すみません。聞いてませんでした」
「素直でよろしい。それに免じて今回は許してやる。次はないぞ」
「はい。すみませんでした!」
 本木は腰を直角に折って詫びた。無意識ではあるが大げさな動作に見せてしまうほどの元気、それが本木のウリである。
 それは本木が入隊前の見学時に「訓練校の異様に元気なヤツ」という認識を、隊員に植え付けて帰ったほどなのだ。
 その元気有り余る本木のパワーに西脇は微苦笑を見せたが、一瞬後には仕事の顔へと戻した。
「一応罰を与える。実はインカムが壊れたんだ。予備を北口の監視所から持ってきてくれ。ダッシュでな」
「はい、行ってきます!」
 言うが早いか、本木は北口監視所を目指して一目散に駆け去った。
 ──本木は知らない。罰といえど西脇が、他人にインカムを取りに行かせるような人物ではないということを。
 そして、他の新人たちも班長になにかしらの用事を言いつけられてホールを出て行き、それを見送った指導員たちも間をおかずそうしたことを。
「さて、うちのルーキーは追いつけるかな」
 西脇も他の班長たちと同じように、本木を見送るとすぐにホールを後にした。
 毎年恒例、新人が班長を追いかける鬼ごっこが開始されたのである。

 バツの悪そうな市原を見つけたとき、本木はうんざりとした表情を見せた。
「やあ……本木。三舟さん、知らない……?」
 四度目の問いかけだった。
 二度あることは三度あるとはよく聞くが、四度目まであるとは、勉強が苦手な本木もさすがに聞いたことがない。
「まだ見つけてなかったのか?」
「実はそうなんだ。本木は?」
「こっちも同じだよ。他の奴らも走り回っているみたいだぞ」
「あーあ。早く自分のインカムが欲しいなぁ」
「あれがあれば情報交換できて、簡単に班長たちを見つけることができるのにな」
 それを阻止するためにインカムを渡されなかったとは、本木も市原も気づいてはいない。
 この鬼ごっこは、新人が議事堂内の構造を把握するために毎年行われている。新人が専用のインカムを手に入れたければ、班長を捕まえるしかないのだ。
 しかし、それを知るのは先輩たちのみである。
「インカムがあれば、こんなに走り回る必要はないだろうに……」
 市原が小さくため息を吐いたのを、本木は見逃さなかった。
「おいおい、もうバテちまったのか?」
「バテって……朝礼が終わって二時間、ずっと走りっぱなしだよ。疲れない方がどうかして……って、本木に言うのは間違ってたか」
「これぐらいでバテてどうすんだ。教官だって走り回って息一つ乱してなかったんだぞ。新人の俺たちが先にバテてどうすんだよ?」
 小さな異常でも報告を受ければできるだけ自分の目で確かめて指示をだす方針の石川の姿を、本木は何度も見かけていた。
 本木とそう変わらない体型の石川は、熊のように図体がでかいSPの岩瀬を引き連れ、敷地の端から端へと走り続けている。下手をすると岩瀬を置いていくほどのスピードなのだ。
 そんな石川は、西脇ともに訓練校では伝説の人物である。
 石川と西脇は訓練校の同期で、射撃などの実習やペーパーテストでは常に高得点を叩きだした。
 「満点を取らないことが不文律だ」との悪評高い年度末試験では、共にそれを覆している。
 さらには、石川が入学した年の訓練生は粒ぞろいで、訓練校の教官たちの間では語り草となっているほどである。よく引き合いに出されて、尻を叩かれたことも少なくない。
 そんな石川と比べてしまい、本木は珍しくもひっそりと落ち込んだ。間をおかず、班長に言われたことさえ満足にこなせていないでいる自分に、腹まで立ってくる始末である。
「──俺、行くわ。教官ががんばってるのに、ここで油売ってらんねー」
「そうだね。僕もがんばろう。それじゃ本木、がんばって」
 互いに手を挙げて、二人は別れた。
 
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