ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

西やんと内藤さん

kiss

3.はさみ(内藤ver.)
「部長」
「なんだ」
 呼びかけられていてもパソコンから目を離さない俺の行為に慣れきらない氏木は、少しばかり青息吐息で言葉を続けた。
「髪、切らないんですか?」
「伸びているのか」
「ええ。そろそろ二ヶ月ですよ」
 髪を切った一番新しい記憶を掘り起こす。たしかに、バイクの転倒事故で入院したときに切ってもらったきりだ。
「じゃあ……」
「いえ、僕はしませんから!」
 引き出しを開けようとした手を、氏木が遮る。
「業務用カッターで散髪なんて、絶対にできませんって!」
「そうは言ったってなぁ」
「地下に理髪店があるんですから、そちらへ行ってきてください」
「だーかーら、その時間がねーんだよ」
「そうおっしゃいますけど、ほんの三十分ですよ? 外部の人間に会うことも少なくないんですから……」
 くどくどと氏木の説教が始まる。そんなのはナントカの耳に念仏だってのはわかってくれないらしい。
 仕方なしに俺はメモ用紙三枚にびっしりと書きこみ、それを氏木に手渡した。
「持ってきてくれ」
 ずらりとリストアップされた資料の多さに、氏木はげんなりとした様子を漂わせる。資料が必要なのは本当だが、体の良い人払いだとわかったからだろう。
「──一時間ほど頂いてよろしいですか?」
「ああ」
「わかりました。もし、この『部屋』を出て行くことになったら、必ず携帯を持って出てくださいね」
「わかった、わかった。早くしてくれ」
 俺に「シッシッ」と手を振られた氏木は、部屋を出て行く際に「絶対ですからね」ときつく念を押していったのだった。

 それからほどなくして、ドアがノックされる。いやに帰りが早いと思いながらも、氏木かどうかなど確かめもせずに声だけかけた。
「なんだ、早かったな」
「俺、約束していましたっけ?」
 予想外の声に慌てて振り返る。
 遠慮を知らない男──西脇は、いたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
 まさか仕事場に来るなんて思ってもなかった俺は、今にも崩れそうな顔を必死に引き締めていた。
「悪い、氏木と間違えた」
「先ほど会いました。お気の毒に、いいように使われて」
「いいんだよ。それがあいつの仕事だ」
 視線をパソコンに戻すと、西脇は氏木とは違って、大げさにため息を吐いてみせた。
「そのしわ寄せが俺に来ているんですけど?」
「なんだ、しわ寄せって」
「氏木さんが戻るまで、どこにも行かないように見張るようお願いされました」
「アイツ……」
 嬉しいことをしてくれるじゃないか。まあ氏木本人にすればささやかな仕返しのつもりで、俺が喜んでいるとは思っていないだろうが。
「ついでに、髪を切るよう説得してくれとも」
「そんなことまで……」
 氏木のヤツめ、結構執念深いな。西脇を味方につけるなんざ、俺に対する報復のつもりだろうか?
「俺も氏木さんと同意見ですよ。内藤さん、髪伸びすぎ」
「じゃあ、切ってくれ」
 今度こそ止められるよりも先に、西脇へカッターを手渡す。
「俺が?」
「ああ。今、ここで」
 別に髪を切りたくないわけではないが、切りに行く時間がもったいないのだ。そんな時間は、一人でも多く、テロリストの検挙に使いたい。二度と、西脇に傷を負わせたくないんだ。
 そのうち散髪の時間をとる必要はでてくる。それまで放って置いてもいいじゃないか。だからお前もあっさり諦めてくれよ。先ほどの氏木のように。
 俺はこれで散髪の話は済んだと、パソコンに集中することにした。西脇はと言えば、なにやら背後でごそごそとしている。気にはなったが、声をかけるほどでもなかったのだ。
「ちょっと作業止めてください」
 言われると同時に、西脇は俺に何かをかぶせた。見下ろすと、銀色のビニールが首から下を覆っている。
「何だ、これは」
「ケープの代わりです」
 西脇は楽しそうに、首の周りのシートを寄せてセロテープでとめていく。初めは何なのか理解できなかったが、散髪時に服へ髪がかからないように着せられるビニールシートだと思い至った。
 同時に、あることも思い出す。
「これ、頼んでいたやつじゃないのか?」
「そうですよ」
 こともなげに西脇は肯定してみせた。ならばこのシートは、バイクカバーのはずだ。この間議事堂へ出かけた際、バイクを野ざらしで放置していると言ったところ、西脇が今度買い出しに行ってくれるという話をしたばかりだったからだ。
「穴、開けたのか?」
「当然」
 愛車の製造元の青いロゴがシートの端にチラチラと見える。たしかメーカー製のものは、安く見積もってもヘアカット料金の四回分前後の値段はするずだ。
「もったいねぇ……」
 思わぬところで痛い出費に、痛みもしない頭痛に襲われた気がしていた。これなら素直に散髪に行けば良かった。
 頭を抱えそうな俺の様子を楽しそうに眺める西脇の様子がひしひしと伝わってきて、情けないやら苛立たしいやら、何とも言えない感情が俺を支配する。きっとこれも、西脇の計算のうちなのだろう。
 特別視している相手に、いいようにもてあそばれるというのも、俺が抱える感情を複雑にさせていた。
「──お前、俺をいじめて楽しいか?」
「まさか。俺、そんなに性格悪くないですよ」
 すっとぼけていることを俺がわかっていると知っているからこそ、西脇は余裕の笑みを見せていた。
 そう。俺は好きなのだ。この自信満々な一笑が。
「あー、もういい。とっととやってくれ」
「俺がやるんですから、高いですからね」
 言いざま、大胆に前髪をはさみで切り落とした。そのまま無造作に全体を短くしていく。その無謀ぶりに、思わず俺は声をかけてしまった。
「おいおいおい、大丈夫なのか?」
 振り返ると、西脇は渋い顔で俺を見下ろしていた。
「動いちゃダメですって。自分でハゲつくるつもりですか?」
「ああ、すまん」
 言われて、座り直す。髪のことが気になって、もう仕事をする気にもならなかった。腹を据えて背もたれに寄りかかる。
「大体、自分でカッターを差し出していた人がなにを言っているんです?」
 それを言われると、確かに俺には文句を言う資格は無い。
 しかしだ。いくらなんでも無様な格好にはなりたくない。
 よほど難しい顔をしていたのだろう。西脇は笑いを噛み殺した声で言った。
「心配しなくても大丈夫ですって、できる限りまともに切りますから」
 西脇は、できないことを口にしない。見えないので確証は無いが、手つきとしては素人だがやり方はプロに近い。
「切ったことあるのか?」
「いいえ。一度やりたいと思っていたんですよ。まさかこんなところで体験するとは思わなかったですけれど」
「にしては、慣れた手つきだな」
「見よう見まねです。自分が切られるときに、鏡で見ていましたから」
 西脇が「終わりです」とケープを取ってくれたのは、切り始めて三十分は経っていた。
「へえ、上手いじゃねーか」
 のぞき込んだロッカーの小さな鏡には、さっぱりとした頭髪の俺が映っていた。
 最初の心配を裏切り、素人が切ったにしては長さが揃っている。短めなので少々青臭い感じがするが、時間が経てば伸びるのだからそんなに気にすることでもないだろう。
「ナントカとはさみは使いようってか」
「何か含んでいません? その言い方」
「気にするな。お前の気のせいだ」
「ホントかなぁ」
「疑うなよ」
 椅子の周りに落ちた髪を片づける西脇に、大股で近寄る。西脇は驚いて身を引いたが、俺の方が早かった。
 頭を力ずくで抱き寄せ、そのまま口付ける。
 抵抗する右腕を掴み、左腕は全身をつかって押さえ込んだ。後ずさりする西脇はやがて壁に行き当たり、逃げ場を失う。そこでやっと、抵抗をやめた。
 西脇はされるがまま、口腔を犯す俺を受け入れる。
 時折漏れる、あえぎともうめきともつかない声だけが部屋に満ちていた。
 どれだけ貪ったのかは憶えていない。唇を離したとき、俺は充分に満足していた。
「これが報酬。お前を蔑(ないがし)ろにしてない証拠だ」
「──報酬? 嫌がらせじゃなくて?」
 やっと言葉を紡いだ西脇は、微妙に俺と視線を合わせない。薄赤く染まった顔を、ほんの少しだけ俯かせている。
「嫌がらせ? まさか。他の誰にも手に入らない報酬だぞ。俺は巽専用だからな」
 赤味を増した顔をのぞき込むと、西脇は今度こそ、俺の手から逃れた。
「またそんな、冗談ばっかり……」
「本当に、冗談だと思ってるのか?」
「どうしてそんな、ああ言えばこういう人なんですか」
 独り笑いする俺を軽くにらんだ西脇は、考え込むフリをしながら顔を片手で覆った。
「──わかりました。冗談ではないということにします」
「だったら、お前は?」
「俺?」
「そう、俺の言葉は冗談じゃない。なら、お前は?」
「か──考えておきます」
「期待してるぞ」
 西脇は、できないことを口にしない。答えをくれるのは、そう遠いことでは無いだろう。
 顔を隠したままの西脇の頬を軽く二度叩くと、俺はデスクに戻る。
 そして何も知らない氏木が、台車いっぱいの資料を持って帰ってきたのだった。
― 了 ―

あとがき
 三作目となりました今作は、『kiss』を書く切っ掛けになった話となります。2004/11/28のGDオンリーの帰りに、最初の構想を練りました。
 当初、プロットの表向きは西内でした。しかし、私としては内西であり、かつ西やんが「誘い受け」という日本語が似合う男と認識されていまして(笑)
 どうしても最初のままだと納得がいかないため、『kiss』はバージョン違いの二本立てで行くことになりました。
 次回、いよいよ最終話となります。
(2004/12/26)
 
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