ジルコン

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アレ城
[01] ギフト
西やんと内藤さん
[03] コール
冠累
[02] 約束
その他
[06]料理☆爆弾
     
[04] Don't cry,my Blue.
             
[01] 認められない理由
   

西やんと内藤さん

コール

 ワンコールが終わるか終わらないかのタイミングで通話を切るのは、どちらからともなく始めた習慣だった。余裕があれば受けた側がすぐに折り返す。それができないのは相手が忙しい証拠。スケジュールが決まっているようで決まっていない西脇と内藤には扱いやすい、近況報告の手段だった。
 今回もそれをするつもりでかけた電話だったが、西脇が切るよりも早く、応答の声が耳に届いた。
「内藤さん?」
「あぁ? 西脇か? お前、電話とるの早いな」
「とるのって、俺がかけたんですよ?」
「俺もお前にかけたところだぞ」
 半瞬だけ二人の声は途切れたが、すぐに苦笑いで応じあった。
「タイミングいいですね」
「だな。もしかして、お前、今晩ヒマか?」
「ええ。内藤さんも?」
「俺もだ。いつものコースでいいか」
「いいですよ。いつもの時間で?」
「ああ。じゃあな」
「ええ。では店で」
 
 
 内藤は予定よりも少し早く、待ち合わせの居酒屋に現れた。店の奥に位置するいつものテーブル席で待ち受けていた西脇の向かいに腰を下ろすや否や、開口一番に眉をひそめる。
「異動、断ったんだって?」
 耳が早いな、と西脇は内心舌を巻いた。委員会から訓練校の教員にどうだ、という話が持ちかけられたのが先週のことである。現場を知っている者を訓練校に送り込みたい意向らしく、この話は西脇だけでなく、警備隊の班長全員と、隊長に声がかけられていた。
「情報、早くないですか? 断り入れたの昨日ですよ」
「今朝、有馬から聞いたんだよ。班長連中はみんな断ったってな」
「有馬さんから?」
 意外な情報源に目を丸くする西脇を面白そうに見つめ、内藤は運ばれてきた升酒を喉に流し込む。
「班長連中に声をかけてくれと頼んだのが、訓練校側だったんだよ。テロリストの手段も年々、あくどくなってきているからな。ここらでいっちょ、体験者にケツをひっぱたいてもらいたかったらしいぞ」
「だからって、班長全員に声かけることないと思いますけどね。委員会が班長を一新したがっているのかと思いましたよ」
「訓練校の希望が出たって事で、ヘタな鉄砲撃っただけじゃないか? 一番の狙いは十年選手だろう。DGには席が少ないから、異動となるとなかなか難しいからな。せっかくのチャンスなのに前線からどかないとは、しつこい年寄りどもだ」
「それは内藤さんも一緒でしょ。部長になっても現場に出てくるんだから」
「俺は年寄りじゃねぇよ。部長職にしたら若い方だ」
「ま、そりゃそうですけどね」
「それに、氏木たちはまだまだひよっこだからな。俺が面倒見てやらんとな」
「そういうことに、しておきますか」
 そうしておけ、と相好を崩した内藤は、運ばれてきた升の中身を飲み干した。
 
 
 二人が飲み始めて二時間ほど経った頃になると、内藤の目の縁はほんのり赤く染まっていた。先に飲み始めていた西脇よりも四杯は多くアルコールを消費しているからである。
 常連の特権でキープしている一升瓶の中身を升に注いだ内藤は、電灯の光をゆらゆらと反射する水面を眺めていたが、不意に顔を上げた。
「お前、なんで承諾しなかったんだ?」
 唐突に話が変えられたことで戸惑った西脇だったが、すぐに訓練校への異動の件だと気がついた。
「内藤さんと一緒ですよ。部下たちを放っておけないんです。それに」
「それに?」
「まだまだ、石川が心配で」
 実際に西脇が気にかけているのは、石川と岩瀬の二人である。個々だと岩瀬は申し分なく、石川も以前の危うさも抜けてはいるが、二人一緒だとやはりまだ目が離せないのだ。
「岩瀬を信用してない訳じゃないんですけれど」
「まあ、お前は、訓練校の時から石川をサポートしていたからな」
 声音に奇妙な揺らぎを感じた西脇は、内藤を見すえる。内藤は眉間にしわを寄せ、その視線を受け止めた。
「お前、石川を見て、部下を見て、警備隊も見ているのに、何で自分のことは無頓着なんだ?」
「無頓着なつもりはないですよ」
「じゃあなんで、爆弾なんかに手を出しているんだ」
 指摘に、西脇の左目の下が一瞬だけ痙攣する。
 内藤の指摘は、三日前に議員の車に取り付けられた時限爆弾のことだった。時間は無かったがつくりが簡単だったため、爆班の到着を待たずに西脇が解体したのだ。大事には至らなかったため、内藤の耳に入らないだろうと西脇はたかを括っていたのが、甘い予想だったのである。
 普段は内藤に身を慎めと小言を言っているため、西脇はばつが悪そうな笑みを浮かべた。
「それを、どこで?」
「本木だ。珍しく平田に張り付いていたからワケを訊いてみたら、お前の爆班並みの手際の良さに、いたく感動したと言ってたぞ」
 意外なところから漏れたものだと感心しながら、西脇は升を傾ける。その手首を、内藤がテーブル越しにつかんだ。
「もう、心配させるな」
 あまり見せることのない厳しい視線に、西脇は目を伏せる。
「すみません」
 手首をつかむ手を優しく引きはがすと、その手のひらに西脇は口付けた。
■ ■ ■
 頭の奥をくすぐるような嫌な感覚に揺すり起こされ、西脇は上手く動かないまぶたを無理矢理こじ開けた。
 馴れない柔らかさのベッドの上で上半身を起こすと、隣で寝息をたてている内藤が身じろぐ。うつ伏せに寝返りを打った内藤を起こさないように、ゆっくりと西脇はベッドを降りる。
 不快感の元は、すぐに見つかった。床に脱ぎ捨てられた服の山の中で、携帯電話がむずがっているかのように小刻みに震えている。
 西脇はそれを拾い上げてバスルームに駆け込む。誰からの着信なのか確認すると、意外な人物の名前がパネルに表示されていた。
「もしもし? ああ、よかった、繋がった」
「氏木さん? どうしたんです?」
 以前西脇は、氏木に携帯番号を訊かれたことがある。よく携帯電話も持たず行方不明になる内藤の所在をつかむため、番号を教えて欲しいと頼まれたのだ。そのため氏木の携帯のメモリーには、内藤関係の電話番号が自分の物より多く記録されているとぼやいていたほどである。
 西脇は氏木の頼みを快諾した。おそらく行方不明で氏木が探しまわる場合の何割かは、内藤は自分と一緒の時だという自覚があったからである。
 そんなことがあって以降、携帯は常に持ち歩くようにと内藤に言い含めていたためか、西脇の携帯が鳴らされたのはこれが初めてだった。
「部長とご一緒ですか?」
「ええ、今はビジネスホテルです。昨晩一緒に飲んだんですが、久しぶりに飲み過ぎのようでしたし時間も遅かったので、ご自宅にはお送りしませんでした」
「そうですか。それならよかった。よければそのまま今日一日、そちらで閉じこめておいてもらえませんか」
「内藤さんを、ですか?」
「ええ。実は、四日前に部長を狙ったテロがありまして。未遂に終わったんですが、今日、同じ組織の者による大がかりなテロがあるとのタレコミが、昨日あったんです。ですから安全なところに避難してもらうつもりだったんですが、いつの間にか庁舎を抜け出してしまって。テロリストは確保できる算段がついています。幸いなことに、テロリストは部長が庁舎にいると信じていますから、それまで部長にはじっとしていただきたいんです。副局長への昇進の打診を蹴ったんですから、それぐらいはしてもらわないと困るんですよ」
 西脇は氏木の説明を聞きながら、静かに浴室のドアを開け、ベッドで眠りこける内藤へ視線を向ける。
「わかりました。今日は俺、一日ヒマなので、内藤さんを監禁しておきますよ」
「すみませんが、よろしくお願いします」
 電話口では何度も頭を下げているだろう氏木との通話を切り、西脇は浴室を抜けてベッドに腰掛けた。
「自分だって、石橋を踏みならして渡っているじゃないですか。昇進話もおじゃんにして。俺よりタチ悪いと思いますけど?」
 薄紅に染まり始めた背中に指を滑らせると、西脇は内藤の耳に口を寄せ、ほくそ笑んだ。
「氏木さんから許可はもらいましたからね。今日一日、好きにさせてもらいますよ」
― 了 ―

あとがき
 2006/06/11のイベントで出した本の再録になります。
 これを書き上げた時点では、西内か内西か決めかねていた頃です。この頃はまっていた(今もですけど)おっさん受けもいいけどオーソドックスに年下受けも良いしなぁと思っていたようです。
 
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